ピーター・ティールの名は、「イーロン・マスク 未来を創造する男」でも度々登場します。
「ペイパル・マフィア」と呼ばれる、シリコンバレーの起業家ネットワークの中心人物ですが、
マスクのように巨大企業のCEOを務めているわけではないので、
メディアでの露出は、それほど多くありません。
また、リバタリアンで、トランプ支持者ということもあり、
ダークヒーロー的イメージも纏っています。
本書は、大学での起業家向け講義を書籍化したものですが、
新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。
ZERO to ONE より引用
おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がNになる。
だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる」
という本書中の言葉が、タイトルの意味することろです。
全体的に、スタートアップの起業家に向け、起業するにあたっての心得を説いた内容なので、
私のような従来型の一般企業に勤める者にとっては、やや実感に乏しい面もありますが、
イノベーションへの向き合い方は、スタートアップでも一般企業でも変わりありませんので、
示唆に富んだ内容は参考になります。
大学の講義がベースになっていますので、生徒に問いかけるように、
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?(隠れた真実)」
から本論が始まります。
その答えであり中心的なテーマは、
競争は決して”善”ではない、ということと理解しました。
完全競争の下の企業は目先の利益を追うのに精一杯で、長期的な未来に備える余裕はない。
そこから脱却を可能にするのは独占的利益であり、
独占こそがイノベーションへの強力なインセンティブとなる。
と述べられています。
もちろん、進歩を妨げる独占企業は危険だとも述べていますが、
基本的には、独占企業性善説的な匂いがします。
競争を避け、独占的な利益を得るためには、ゼロから1を生み出すイノベーションが必要。
と言葉で言われれば、確かにその通りなんですが、そこがスタートアップと従来型企業では、
多少ハードルの高さが異なる点でしょうか。
その他、「隠れた真実」として述べられている主なところでは、
・目先の利益よりも、将来キャッシュフローを重視すること(この考えはベゾスも同じでしたね)
・終盤を制する(ラストムーバー)。ファーストアドバンティッジは、手段であって目的ではない
・小さなニッチ市場から始め、長期にわたって独占的利益を享受すること
・いたずらに競争や破壊に走り、既存企業との対決すのではなく、市場全体を潤し、
活性化できるようなイノベーションを起こすこと
最後の章では、環境ビジネスについて述べられています。
本書は、2014年の刊行なので、現在ほどSDGsは過熱していなかったかもしれませんが、
ティールは、環境ビジネスをある種のバブルと捉え、
倫理的に正しいだけではなく、イノベーションを基本とし、ビジネスとして成立させない限り、
所詮、バブルに終わってしまう、と冷ややかに見ています。
このようなあからさまな物言いが、世間にダークな印象を与えている所以かもしれません。
一般企業のビジネスパーソンには、やや実感に乏しい面もありますが、
253ページの手頃なページ数で、常識の裏の「隠れた真実」に気づかせてくる、
比較的手に取りやすいビジネス書です。