PIXAR、ディズニーに続き、エンタメ業界を題材にしたビジネス書の最後は、
NETFLIXです。
創業者のリード・ヘイスティングス氏が語る経営手法を、
INSEAD教授のエリン・メイヤー氏が社内で取材し、
検証する形式で進行するユニークなビジネス書です。
PIXARやディズニーが、ロマンの香りに溢れていたのに対し、
本書は、極めて実利的な内容に終始しています。
コンテンツに関する裏話はほとんどなく、
同社のカルチャーとそれに裏打ちされた経営手法が、
言わば手の内を明かすように詳細に解説されています。
簡単にマネできるもんか、という自負もあるのでしょうが、
確かに、一読した率直な感想は、私が勤めている会社ではムリ!です。
本書の最終章で、同社のカルチャーと同社が展開している各国の文化の違いが
データで示されていますが、
日本の文化は、同社のカルチャーの対極に位置しているようなので、
私が勤めている会社に限らず、日本での導入は相当ハードルが高そうです。
同社のカルチャーは、「自由と責任」という言葉で言い表されています。
カルチャーを運用面に落とし込むための第一歩が、
旅費規程や休暇規程を設けない「脱ルール(NO RULES)」であり、
次の一手が、情報のオープン化、承認プロセスの廃止、最高報酬の提供等です。
情報のオープン化等は日本でもよく耳にする言葉ですが、
同社においては単なるスローガンにとどまらず、
下手にマネすれば会社が崩壊しかねないほど徹底しています。
「脱ルール」が成立するのは、コンテキスト(文脈)の理解が徹底されているからです。
また、それに対応できる優秀な人材だけが採用され(「能力密度を高める」
という言葉で表現されています)、最高の報酬が支払われます。
逆に、カルチャーから外れた者は、容赦なく切り捨てられます。
「スター以外には即座に十分な退職金を払い、スターを採用するためのスペースを空ける」
という社内向けに作られたスライドはショッキングです。
それが同社の成長を支える「自由と責任」のカルチャーです。
例えば、ビジネスクラスを利用して出張して良いか否か、
規程がない以上、各自がコンテキスト(文脈)で判断することになります。
「ビジネスクラスで出張することは、会社にとって利益になるのか?」
というコンテキストに照らして適正な判断ができる社員だけが、
自由な判断を許されます。
コンテキストが理解できず、短時間のフライトで、
かつ必然性(例えば、機内で契約交渉の準備をする等)もないのに、
ビジネスクラスを利用した社員は、容赦なく退場させられます。
その意味では、明文化された規程以上に厳格な、
コンテキストというルールが設定されているとも言えます。
これはほんの一例で、もっと高次元の、例えば承認プロセスの廃止についても、
どうやってカルチャーとして根付かせることができたのか、
そのためにどんなアラインメント(意思統一)がなされてきたのか、
について詳細な解説がなされています。
もちろん、全ての企業に同社の手法が適用できるわけではなく、
「ルールと手順」が重視されるべき業種(製造業等)や部署(経理等)が
あることも、ちゃんと示されています。
生産体制を安定的に維持し、100%高品質な再現性が求められ、
かつ安全が第一に優先される製造業のような企業形態では、
厳格なルールが優先されるべきは言うまでもありません。
ただ、現在の経営環境では、製造業であってもイノベーションは必須です。
「うちではムリ!」の一言で片づけることなく、
イノベーションを促進する仕組みを、
それが有効に機能している会社から学ぶことは、
コロナ禍にある企業経営にとって、極めて有益なことと思います。