全体の2/3ほどは、毎年の株主に宛てた手紙で占めらています。
従って、業績のアピールに偏りがちな面はありますが、
ベゾス氏とAmazonを知る手がかりになりそうな記述も多く見られました。
先ず、「長期」というキーワードが、何度も出てきます。
今、利益を生まなくても、お客の利便性に資することで、長期的な利益を生みだすことを基本に、
ビジネスが組み立てられています。
例えば、ネガティブなレビューの公開やサードパーティーへのプラットフォームの解放なども、
そんな考えに基づいて始まりました。
一時的には売上を圧迫することになっても、長期的な顧客の獲得に繋がるなら、
直感を信じてやってみよう、という姿勢です。
また、代表的なサービスの一つであるキンドルについてですが、
デジタル化が進む社会では、情報のつまみ食いが起こるとベゾス氏は考えています。
キンドルが長文を読むための利便性を提供することで、
本離れを食い止め、社会に貢献できると考えたそうです。
スキルを起点にして考えるのではなく、お客を起点にして考えろ、とも言っています。
一般的には、既存のスキル=”強み”を生かせと言われますが、
既存のスキルは、いずれ時代遅れになるのだから、
常に、お客起点で新しいスキルを生み出すことに挑戦するのが、
イノベーションだということです。
繰り返し実験し、失敗する覚悟を持てとも述べています。
この辺りは、以前紹介した「失敗の科学」にも繋がる考え方です。
後戻りできない意思決定(タイプ1)は、経営層が慎重に判断すべきだが、
ほんとのどの意思決定は変えられ、もとに戻せる(タイプ2)のだから、
タイプ2にタイプ1を当てはめてはいけない、
動きが遅くなり、むやみにリスクを回避してしまう、と警鐘を鳴らしています。
常に、はじまりの日(デイワン)、自分達はまだ創業したばかりだと言い続けろと言っています。
はじまりの日にとどまるには、実験をあきらめず、失敗を受け入れることだと。
株主への手紙の終盤で、タイトル(Invent & Wander)の意味が明らかになります。
明確な目的に向かって計画どおり進めることは効率的だが、新しい発見はない、という意味です。
一方、”さすらう”ことは、一見非効率だが、予想外の発見がある、
直感と感性と好奇心に導かれ、お客様のためになるなら多少混乱があっても脱線してみる価値はある、
と言っています。
後半の1/3は、ベゾス氏の講演からの引用などですが、
氏の人間性を知る手がかりになるエピソードを一つだけ。
喫煙者の祖母の寿命がどのくらい縮んだのかを計算し、
本人に告げたことで祖母を泣かせてしまったベゾス少年に対し、
祖父が「賢いよりも優しいほうが難しいんだ」と諭したエピソードが語られています。
頭の良さは才能、優しさは選択。選択が人間を作るんだとベゾス氏は言っています。
社員の賃金アップやスキル取得への支援もそうですが、
ブルーオリジンもベゾス氏なりの社会貢献の志に基づいた大事業のようです。
発言の全てを鵜呑みにするわけにはいかないのかもしれませんが、
本書を読むと、魔王のように思われがちなベゾス氏への見方が、
少し変わってくるのは間違いありません。