トニー・シェイの訃報が報じられていましたので、
10年ほど前に読んだ本書を紹介します。
シェイ氏は、ザッポスの実質的な創業者ですが、
同社はご承知のとおり靴専業のEC企業です。
ジェフ・ベゾスがどうしてもそのノウハウや経営理念を取り入れたくて、
M&Aで傘下におさめた会社としても知られています。
日本の伝説的創業者の立志伝とはやや趣が異なり、
ビジネス書というより、シェイ氏の自伝的要素が強い本です。
グダグダな状態だった頃のことも正直に語られています。
「SHOE DOG」もそんな感じでしたね。
レイヴ・パーティーで成功へのインスピレーションを得たことや、
何故かレッドブルが手離せないことなど、
我々凡人にとっては、引いてしまいそうなエピソードも見られます。
一方で、「ハピネス」を中核理念に据え、
商品を便利に届けること以上に、「ハピネス」やホスピタリティーを届けることを、
自分たちの使命と考えている点が、Amazonとは決定的に異っています。
シェイ氏とその仲間の心意気のようなものが、
記載されているエピソードからもうかがい知れます。
例えば、深夜ふざけてピザを注文してきた客に対し、
オペレーターが、その時間、その地区でオープンしているピザ屋の電話番号を教えた、
といったエピソードが語られています。
ノードストロームとかリッツカールトンとか、
ホスピタリティーを標ぼうする会社ではよく聞かれそうなエピソードが随所にでてきます。
海外の会社のこの手の話を聞くと、芝居がかっていて鵜呑みにはできないな、
と思ってしまいますが、
顧客への考え方の基本みたいなものは、文化の違いを超えて心に響きます。
シェイ氏の魂の遍歴的な部分もあり、
ややカルト的、宗教的な匂いもしますが、
志こそが大事なんだ、という強い思いには心を動かされます。
ザッポスの経営以外でも、
市民生活に「ハピネス」をもたらすようなコミニュニティーを作ろうとしていたシェイ氏ですが、
ザッポスのCEOを退いてほどなくの非業の死でした。