職人魂

車をバックさせようとして、ドアを開けて後方を見ようとした拍子に、落としたスマホをタイヤで踏んづけたらしく、妻のiphoneは画面がバキバキに割れています。
一方、本体画面や機能には損傷がないようですから、さすがiPhoneは頑丈です。

家族カーストでは、婿君をかろうじておさえ、下から2番目に位置するイダログですが、スマホの画面に保護シールを張る時だけは、皆から頼りにされます。
この時ばかりは、王です、酋長です、社長です、そして職人です。

妻から「お願い💛お願い💛」などと、保護シールをヒラヒラさせながら頼まれても、頑固な職人の私は決して甘い顔は見せず「但し、責任は持てんぞ」と、不機嫌そうに頷き、いざ”保護シール貼付の儀”に臨みます。

埃が舞わないようエアコンを消し、先ずは正座して精神統一です。
昔に比べると、シールにしろガラスにしろ、貼り易くはなりましたが、それでも油断すると、画面に残った微細な埃がシールとの間に気泡を作ってしまいます。

先ずは、丹念に画面の汚れを落とし、埃が残っていないか凝視してから、静かに画面にシールを着地させます。
ここで、あせって手を出してはいけません。
シール自身の自重で不要な空気の層を排出してくれますから、念力を送りながら、静かに待ちます。
それでも稀に、気泡が残ることがありますが、そんな時は付属品の布を使い、カーリングのスイーパーみたいに、丁寧に、そして素早く、気泡を押し出すのがコツですね。

やったぜ!完成だ、と思ったのも束の間、よくよく見ると小さな糸くずがシールと画面の間に挟まっていることがあります。
こんな時は、職人魂が許せず、腹を切ろうかとさえ思います(ウソです)

琥珀の中に残された古代の虫みたいなのが、数千円で売られていますが、あえて蚊とか蚤の死骸なんかを残しておいたら、オシャレなんじゃないかなと思うことがあります。
わかってます。気持ち悪いだけです。
だったら、蝶の羽なんかどうでしょう?って画面が見えなくなるだけです。

こんな職人技のようなことを、世界中の人、とくにグローブみたいな手をした欧米人にできるとは思えません。
手先の器用な日本人”ならでは”なんじゃないかと思いましてネットで調べてみたら、案の定、保護シールを貼るのは日本人だけらしんですが、そんなどうでもいいことをデータで検証している人もいないため、確たる証拠はありません。
なんとなくそんな気はしますよね。

そもそも保護シールは不要だという説を唱えるサイトも沢山あったんですが、最後まで読んでいくと、シールなんかよりケースが有効だとか、コーティングが有効だとかを、ECサイトにリンクさせリコメンドしている記事だったりしますから、何が本当に有効なのかわかったもんじゃありません。

タイヤに踏まれても死ななかったiPhoneなので、意外と保護しなくても大丈夫なのかもしれません。
欧米人なんか、もっと雑に扱っているんでしょうが、私たち日本人はそうはいきません。
新品の電化製品の表面を覆っている薄いフィルムを何時までも剥がさない人がいます(私です)が、あのフィルムの下で、常に新品の美しさが保たれてると思うと簡単には剥がせない気持ちわかります?
買ったばかりの車に被せてあるビニールシートを何時までも外さない人もいますが、あれは邪魔なだけ(特に夏場は)なので、さすがの私にも理解できません。

若い人のスマホの画面は「胸ポケットに入れて置いたスマホが銃弾を防いでくれて命拾いしましたよ💦」って言う人のスマホみたいに、無残にヒビが入っていることが多いんですが、その内、ビジネスマナー教の教祖みたいな人が、「上司の〇〇に代わります」とか言って、お客さんにスマホを渡すことがあるから、画面は常に美しい状態に保っておくのがビジネスマナーの基本です、などと言い出す日もそう遠くはないと思っています。

さて、責任重大な仕事を成し遂げ、糸くずやほこりが挟まっていないことを確認し、めでたく妻に仕上がった品を献上いたします。
妻からは「わーい!」の一言だけでしたが、腹を切らずに済んで、ほっと胸をなでおろすイダログでした。

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