ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった

画像引用:Amazon

イダログの読者には、多分ですが、ザ・バンドのファンはいないと思いますので、
自己満足のためだけに、勝手に話を進めます。

何となく垢ぬけないサブタイトルですが、原題も「Once Were Brothers」です。
本作の主役(語り部)であり、ザ・バンドのフロントマンだったロビー・ロバートソンが
2019年のリリースしたアルバム「Sinematic」の中の曲名に因んでいます。

ディランのバックバンドとして、ディランとともに神話を築いてきたバンドですが、
ザ・バンド自身も、ディランとはまた違った神話を築いてきました。

本作の語り部であるロビー・ロバートソンは1980年に脱退し、
それ以降もザ・バンドはしばらく存続したものの、
実質的には、ロビーの脱退でバンドとしての伝説は終焉を迎えました。

ロビー在籍期間中の来日はなく、脱退後まもなく東京厚生年金で公演がありましたが、
当時の演奏は、(個人的な感想ですが)虚しい郷愁を呼び覚ましてくれただけでした。

監督が「ラストワルツ」も撮ったスコセッシということもあり、続編的な趣も感じさせます。
メンバーの出会いから、ロックに転向しブーイングの嵐に晒されていた頃のディランのサポート、
ザ・バンドとして頂点を極めた後、ロビー以外のメンバーがドラッグにより崩壊していった様が、
数々の名曲とともに、ロビーや交友のあったミュージシャン達によって語られています。

そんな中、ファンとして興味を引かれたエピソードの一つが、名曲「The Weight」の誕生の背景でした。
昔、音楽雑誌で読んだ記事には、
『「The Weight」の歌詞には何の意味もなく、単に語呂の良い単語を並べただけだ』
みたいなことが書いてあったて、少しガッカリした記憶があるんですが、
実際は、♪I pulled in to Nazareth という歌いだしの歌詞にもちゃんとした由来があり、
曲自体にもロビーの思いが込められていたことが本人の口から明らかにされています。

バンドがゴタゴタしていた頃のコメントだったのか、当時のロビーが”トンガっていた”だけなのか、
私にとっても思い入れの強い曲だけに、本意が聞けて安心しました。

そして最も心を揺さぶられたのが、後半で語られる、リーダー格であり、
本作のサブタイトルが暗示している”兄弟”でもあるレヴォン・ヘルムとの確執についてです。

ファンの間では、レヴォンの死の直前、ロビーが飛行機で病院に駆けつけて和解したっていう話が、
ずっと信じられてきましたが、
本作では、ロビーが駆け付けた時、すでにレヴォンは意識がなく、
手を握って「来世で会おうぜ」と声をかけるのが精一杯だったことが語られています。

ロビーにとっては、たとえレヴォンの方が間違っていたとしても、
最後に一言「今でも俺たちは兄弟だ」ぐらいの言葉は、言ってもらいたかったのかもしれません。

和解したっていう話も、ファンの願望としては有難いんですが、
実際は最後まで和解できず、ロビーがずっと後悔の念を引きずっていたのであれば、
伝説よりもむしろ切ない真実の方に、私の心は揺さぶられます。

もっと気の利いた文章で締めたかったんですが、思い入れが強すぎてうまくいきません。

マニアックな映画なので、積極的にはお勧めできませんが、
1960年代のロック黎明期の、勢いに溢れた空気感みたいなものとともに、
当時のロックミュージシャンの音楽への純粋な思いと、危なっかしい生き様が伝わってくるようなドキュメンタリーです。

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