
最近、バク・ヘヨンという脚本家の存在を知りました。
パク氏が、先日Netflixで配信が始まった「誰だって無価値な自分と戦っている」や、名作「マイ・ディア・ミスター」を書いた脚本家と知り、過去作(2022年)である本作も鑑賞してみたくなったのですが、世評どおりの傑作でした。(本作もNetflixでの配信です)。
パク氏の脚本は、マイノリティーや居場所のなさを感じながら生きる人々に寄り添い、優しい視線で彼らの緩やかな再生を描くところに特徴があります。
キム・ジウォン演じる主人公ミジョンは、自分自身に対しても周囲に対しても、鬱々とした不満を抱えながら、心を閉ざして生きている女性です。
相手役のソン・ソックは、過去のトラウマを抱え、ミジョンの父が営む工場に流れ着いた謎の男クを演じています。
舞台となる架空の町、サンポ市は、水原(スウォン)近郊にあり、主人公とその兄姉は、約1時間半の通勤でソウルに通っているという設定です。
本作は、主人公二人の”心の解放への道程”であるとともに、寂れた地方都市で燻ぶる若者たちの青春群像劇でもあります。
登場人物の誰しもが、生きづらさや居場所のなさを抱え、自分自身を解放するために、不器用な歩みを進めていく様が、ゆっくりとしたテンポでじっくり描かれていきます。
ミジョンと彼女の兄姉は、お互いに慰め合うわけでもなく、普段はよそよそしく、どこにでもいるような普通の兄姉妹です。
思いやりを素直に表現できない不器用さゆえ、安易にお互いの傷を舐め合うようなことはしませんが、兄姉妹、親子の絆は、さりげない一言やしぐさから感じられます。
物語は、主人公の二人だけに焦点を当てることなく、周囲の人々それぞれの抱える生きづらさを、優しい視線で描いていきます。
全てが解決されるわけではありませんが、それぞれの登場人物が、一歩踏み出していく予感を感じさせる演出が、心にじわっと染みてきます。
ゆっくりとしたテンポで、淡々と心の葛藤を描いていく作品なので、誰にでもお薦めできる作品ではありませんが、「マイ・ディア・ミスター」に感動した人にとっては、同じような愛おしさを感じられる作品です。
