
メディアワークス文庫と聞くとライトな印象を受けますが、作品から得られる感動にライトもヘビーもありません。
読み始めの印象は、まるでアメリカの青春映画を見ているようです。
軽妙で洗練された文体に引き込まれます。
作品の舞台は紛れもなく日本なのですが、醸し出される空気感は、highschoolであり、collegeなのです。
三秋氏は、読者をキラキラしたフィクションの世界に引き込むのが上手い作家さんです。
主人公は、20歳の記憶を持ったまま、突然10歳に舞い戻ってしまった青年です。
一周目の20年が順風満帆だったため、過去をやり直そうなどという気は毛頭ありません。
過去を一切改変せず、心地良い二周目を味わおうとするも、微妙な判断ミスによりまったく異なった時間軸を歩んでしまいます。
二周目の10年は一周目とは大違いですが、飄々としたポップな語り口のため、主人公の惨めな日常やサイコな決断でさえ、ほのかなユーモアを感じさせてくれます。
時間が巻き戻ったのは何故か、一周目と二周目の落差にどう折り合いをつけるべきか、過去と未来のピースが見事に組み合わされ、爽やかな読後感を与えてくれる佳作です。