
表題のとおり、ドン・キホーテを擁するPPIHの安田会長による著書です。
運と言っても、安田氏の説く運とは、宝くじに当たる幸運、所謂good luckのことではありません。
氏は、自身が考える”運”について、サイコロを振る回数を増やせば増やすほど、それぞれの目がでてくる確率は限りなく1/6に近づくという「大数の法則」を引き合いに出して述べています。
すなわち、失敗を恐れず果敢にトライアンドエラーを繰り返していくことで、一定の確率で幸運を掴むことができるという合理的な発想です。
一方、経営者個人として運を掴んでも、それを全体の運に昇華できなければ、会社組織としての発展は望めないと説いています。
そのためには、経営者が周囲を巻き込み、やる気を起こさせる人格を備えていなければなりません。
「主語の転換」というキーワードを使っていますが、これは、社内相手にしろ社外相手にしろ、相手の立場に立って物事を考えなさいという戒めの言葉です。
その他、”威張るな””迎合するな””権力者になるな””恐怖支配をするな”等々、強面のイメージとは真逆の極めてリベラルな理念を掲げることで運を掴んできたことが繰り返し語られています。
また、ドン・キホーテと言えば圧縮陳列が有名ですが、本書を読むと、それが最初から意図されたものではなく、試行錯誤の結果だったことがわかります。
安田氏は、自身の個人商店での成功事例である圧縮陳列を、どうにかして標準化し、多店舗展開への拡張性を担保したいと考え四苦八苦しますが、周囲が一向に意を汲んでくれないことに、半ば投げやりに、全てを現場に権限移譲するという大胆な決断を下します。
その結果が、それぞれの店舗ごとで、バイヤー自身の考えで商品を仕入れ販売するという、ドン・キホーテの独自性を生み出しました。
これまでの量販店の常識だった店舗の標準化とは真逆の戦略により競争力を培ったドン・キホーテです。
常識にとらわれない発想や、(意外なことに)人格を重んじる経営姿勢の大切さを教えてくれる良書です。