ルックバック

画像引用:Amazon

「チェンソーマン」の藤本タツキ氏原作の劇場版アニメが、Amazonプライムで配信になりました。

あるライターさんが「2コマあれば世界の本質を表現できてしまう漫画家」と評していましたが、フィルムの一コマ一コマから、作者やアニメーターが物語に込めた思いが溢れ出してきている様な作品です。
1コマでの表現力が並外れている漫画のアニメ化だからこそ、実写に優るとも劣らない表現力が発揮されており、ジブリとはまた一味違うアニメの可能性を見せつけてくれます。

軸になるストーリーは、漫画が大好きな小学生、藤野と京本の成長物語ですが、そんなシンプルさだけでは片づけられない奥深さを感じさせるところが本作の凄みです。
58分の短い尺にもかかわらず、2時間超の映画を見終えた後のような、満たされた気持ちにしてくれます。

巧妙な構成もまた魅力です。
ノーマルな時間軸に加え、人生において誰しもが感じたことがあるであろう、「あの時、ああすれば良かった、こうすれば良かった」という後悔や、選ばなかった人生への思いが、別の時間軸として描かれることで、切なさに胸が締め付けられます。
マーベルのようなマルチユニバースなドラマではないので、選ばなかった人生は決して現実にはなりません。
結局は、選んだ人生を生きて行かなければならないことへの覚悟が胸に迫ります。

夢を追う少女たちと過酷な社会との対比は、弱い者が理不尽な暴力によって潰される世界への怒りを表現しているかのようです。
外の世界との関わりに恐怖する引きこもりの京本は、漫画だけを支えに自分を保っています。
残酷な現実社会の前では、漫画など現実逃避にしか過ぎなくとも、何かを創造することで、誰かの人生に関わり、少しだけでも誰かを支えられるかもしれない、そんな作者の決意や矜持が感じられます。

映像に寄り添うように流れる、haruka nakamura氏によるサウンドトラックも、見事に物語と調和しています。

短い尺にも関わらず、これら様々な要素が絶妙に織りなされた本作は、2024年度のベストムービーとも言える名作です。

タイトルとURLをコピーしました