一生に一度の・・・

花火大会に続く、孫クンの夏休み大作戦第2弾はバーベキューです。

何とかして孫クンの心を掴みたい婿君は、小学校に入学するまでが勝負と決めているようです。
孫クンの脳裏に、父親とのかけがえのない思い出を刷り込むため、思い出作りに余念がありません。

インドア派のイダログにとって、バーベキューは天敵のようなものなのですが、婿君にとっては、普段塩対応でしか接してくれない孫クンの心を掴む絶好のイベントなんです。
もちろん、イベントのたびに、ジージとバーバにも協力要請がくるのは言うまでもありません。
花火大会にはノリノリだった妻も、さすがに「めんどくさいね」(準備と片づけを指してます)と乗る気ではなかったものの、テンションの上がった孫クンを前にすると張り切らざるを得ません。

思い出作り優先のファミリーにはありがちなことですが、全員がバーベキュー初体験です。
ネットの情報を参考にしながら見様見真似でやるしかないのですが、なにはさておきバーベキューコンロは必須ですね。
レンタルでは効率が悪いことに気づいた婿君が、ホームセンターでセットを購入してきました。
イヤな予感がします。飽きっぽい婿君に、投資が回収できるはずありません。
一生に一度しか使わないかもしれないバーベキューコンロが、我が家の物置を占拠する光景が目に浮かびます。

さて、花火大会以上に気が進まなかったバーベキューだったんですが、孫クンの一言で少しだけ心が動かされました。

食材を買い出しに行った際のこと、孫クンがどうしてもマシュマロを焼くと言い張って聞きません。
妻や娘は、マシュマロ?と怪訝な表情ですが、私の心には小さな火がともりました。
なに、マシュマロ?それってスタンドバイミーみたいな映画の中で、キャンプファイヤーを囲んで焼くヤツか?
(スモアって言うらしいですね。サモアかどこかの伝統料理かと思ったら、some more(マシュマロを”もっと”美味しく食べたい)のことだそうです)

映画の中で、アメリカ人の子どもがキャンプファイヤーでマシュマロを焼くシーンが長年記憶の片隅にくすぶっていたものですから、口では妻と同様「孫クン、おいしい肉があるから、マシュマロはいらないんじゃない」と無関心を装いながら、頭の中は既にマシュマロを火にかざす自分の姿で一杯になっています。

ずっと気になっているけど、わざわざ確かめてみるほどのことでもないようなことって、ありませんか?

マシュマロは、チョコパイの間に挟まっているから食べるわけで、大の大人がマシュマロだけを串にさして、焼いて食べようなんて思いませんよね。
日本だったらさしずめ、鶴乃子を火にかざすようなものですから、味がどうのこうのっていう以前に、人の道を踏み外しているような違和感を覚えます。
特にインドア派にとっては、わざわざ原始人みたいに外で火を焚き、日本人の国民食でもないお菓子を焼いて食べることなんか、よほど条件が整わない限り起こるはずがありません。
ちなみに、家のキッチンはIHなので、室内で試してみようとも思いません。

妻も気が進まないなどと言っておきながら、小さなマシュマロに手を出そうとする孫クンに向かって「どうせなら、大きい方がいいんじゃない」などと、豆腐半丁分ほどもありそうなマシュマロを勧めているじゃありませんか。
これは面白いことになるぞ、と内心期待しながら「じゃあ、オレも参加しようかな、バーベキュー」などとあくまでも気が進まない風を装う、素直じゃないイダログです。

当日は案の定、耳元に飛んでくる蚊を追い払いながら、婿君と娘が焼く肉を黙々と食べ、締めのマシュマロの登場を待ちます。
草食恐竜の孫クンは、肉には興味がなく、早くマシュマロを焼けと騒いでいます。
生ぬるいビールを飲み干し「孫クン、まだ肉が残っているでしょ。食べ終えないとマシュマロは焼けないよ」などと、分別のあるジイサンを装いながら、頭の中では、この日のメインイベント、マシュマロの火炙りの刑をソワソワしながら待っています。

ようやく肉や野菜が一段落し、遂にマシュマロの登場です。
「オレは、一口かじるぐらいでいいよ」などと、この期に及んでも祖父としての威厳を保ちつつ、仕方ないから付き合ってやるか、という姿勢で臨みます。

さて、焼きあがったマシュマロをみんなでほおばります。
・・・誰もが無言です。
想像してたのとちょっと違う、という困惑の表情が広がっています。

夏だ!バーベキューだ!マシュマロだ!とテンションを上げてみても、上げ過ぎたマシュマロのハードルは元に戻せません。
香ばしい匂いがしていたはずなんですが、いざ口にすると、歯や唇にぬちゃぬちゃくっつくし、やたら甘いだけです。

完食したら気分が悪くなるかもしれないなどと言いだす娘の傍らで、孫クンも一口齧っただけで、口直しにブドウが食べたいなどと言いだしています。

皆の興味はすでに、このやたら甘いだけのお菓子の原料が何なのか?に移ってしまい、スマホ片手に誰が一番先に検索結果を発表するかで先を争っています(水飴だそうですね)

串に刺されたマシュマロが火で炙られる光景を見ていたら、数十年前の記憶が蘇ってきました。

そう言えば、チーズフォンデュも一生に一度食べたっきりだったなぁ。

焼きマシュマロも、きっと残り少ない人生で口にするのは一度きりになるんでしょうね。

スモアのレシピを見ると、ビスケットやチョコレートに挟んだりしてますので、マシュマロを美味しく食べるためには、私たちが一工夫足りなかっただけなのかもしれません。

そうですよ、ビスケットとチョコレートとマシュマロ、ってまさにチョコパイじゃありませんか!

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