2021年に「テスカトリポカ」で直木賞を受賞した著者による2018年のSFスリラーです。
佐藤氏のように怖そうな佇まいの人が苦手なため、これまで敬遠していたのですが、書評に惹かれ、先ずは文庫化されている本作から入ってみました。
京都で発生した謎の集団殺戮の原因を探り、拡大を阻止しようとする若き霊長類研究者が主人公なんですが、実は、殺戮には主人公の研究が深く関係しており、タイトルからもわかるとおり”ape(類人猿)”と”mirroring(鏡像認知)”が物語のキーになっています。
入念な事前調査と「シン・ゴジラ」を思わせるような演出が、物語にリアリティーと緊迫感を与え、主人公と彼に絡むサイエンスライター(女性)が抱える情緒的なバックグラウンドが、科学的なロジックと見事に絡み合い、物語に人間的な深味を与えています。
科学的には腑に落ちない点もあるのかもしれませんが、一般人にとってはフィクションとして楽しめるレベルで筋がとおっていれば十分です。
上質な娯楽作品として、一気読みを誘う良作です。