経営者必読の書として知られる「貞観政要」を、
元ライフネット生命創業者の出口治明氏が解説した一冊です。
原書を逐一解説しているわけではなく、
出口氏独自の解釈も交えた解説ですが、中国の古典にも造詣が深く、
経営者として高い見識を持ち合わせた人なので、的を射た分かり易い解説になっています。
文庫サイズで250ページ程度なので、出張時のお供に最適です。
「貞観政要」という古典自体は、
約1400年前、唐の二代皇帝「太宗・李世民」の治世について書かれたものですが、
皇帝(リーダー)のみならず、臣下(部下)としての姿勢や心構えについても説かれています。
例えば、3つの鏡という言葉が序章で解説されていますが、
・鏡に自分を映し、元気で明るく楽しい顔をしているかチェックする(銅の鏡)
・過去の出来事しか将来を予想する教材がないので、歴史に学ぶ(歴史の鏡)
・部下の厳しい直言や諫言を受け入れる(人の鏡)
といった次第ですが、
“銅の鏡”なんか、新入社員研修で講師から言われそうなアドバイスですね。
1400年前の唐の皇帝と、研修中の新入社員が鏡の前同じことをやってる姿を思い浮かべると、
なんだか楽しくなります。
その他、奇をてらったような内容は見られず、
・部下に対しては、感情や好き嫌いを排し、公平に接すること。
・部下からの苦言にもきちんと耳を傾けること。
・実績を上げてから仕事を任せるのではなく、任せることで実績を上げさせるべき。
・思い付きで指示を与えず、よく考えて任せ、任せた以上信頼して任せきること。
・リーダーは「人間として偉い」わけではなく、部下と「機能が違う」だけ。
・リーダー(皇帝)は、部下(人民)の働きに支えられている。
むしろ寄生しているとも言える。だからこそ倹約に努め、自身を厳しく律しなければならない。
等々、今を生きるビジネスパーソンであれば、腹に落ちる内容ばかりです。
逆に言えば、リーダーと部下との関係や、リーダーの在り方は、
1400年間、本質的には変化していないとも言えます。
ちなみに、唐の太宗は根っからの賢帝のように見えますが、
実は、兄弟を殺し、親を幽閉し、暴力で王位を簒奪した人物です。
だからこそ、王位に就いてからは人一倍善政に気を配ったようです。
当たり前のことを、きちんとやれるリーダーは、経営者はもとより、
一国の皇帝や大統領だって務まる、と言うことかもしれません。