失敗の科学 / マシュー・サイド

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様々な失敗事例から学ぶことで、失敗を回避する手法を学ぶための本を想像していましたが、
ややニュアンスは異なっていました。

先ず、典型的な二つの実例を対比することで、中心テーマを掘り下げていきます。
一つは、医療業界であり、一つは、航空業界です。

前者では、失敗が表面化しにくく、原因が客観的に分析され難い業界の実例として挙げられています。
後者は、Blackboxの導入以降、失敗が隠蔽されたり、歪曲されたりすることなく、
事故が客観的に分析される環境やシステムが確立されています。
これにより、航空業界は、事故の発生率を極限まで減少させることに成功しています。

本書の原題が「Black Box Thinking」という所以です。

失敗を恥ずべきもの、不名誉なものとして隠蔽してしまいがちな環境を変えること、
考え方(マインドセット)を航空業界のように切り替えることが、失敗の科学では不可欠です。

失敗は必ず起こり得るものであり、
そこから同じ失敗を繰り返さないようにするための客観的な分析、バグの修正を絶えず繰り返すことが、
失敗を回避する最も効果的な方法であると述べています。

そのためには、失敗を報告しやすい環境を作らなければなりません。
失敗に寛容だと、失敗が増加するように思われがちですが、
実際は、失敗を隠すことにより、改善のチャンスが削がれ、
より大きな失敗が発生したり、失敗の防止が妨げられたりします。

安全衛生の現場にも「ヒヤリハット」や「ハインリッヒの法則」という言葉がありますが、
たまたま表面化した一つの失敗の陰には、隠れた多くの失敗が潜んでおり、
それらをきちんと共有することが、改善に繋がります。

その他、失敗を改善に繋げる手法のポイントを列記すると、

・マージナル・ゲイン(小さな改善)
 〜大きなゴールを小さく分解し、一つひとつ改善し積み重ねていけば、大きく前進できる。

・リーン・スタートアップ(小さく始める)
 〜早い段階で試行錯誤するプロセスを設ける。超高速で失敗を繰り返し、検証と軌道修正を行う。

・RCT(ランダム化比較試験)
 〜ある施策の効果を検証する際、施策を打たなかった場合(反事実)との比較も大事。

・事前検死
 〜ある施策が、すでに失敗してしまったという仮定に立って、
  失敗の要因を考えられるだけ挙げていく。それによって、事前に想定されるバグを修正していく。
  いわば、イシューツリーの逆バージョン。

失敗から学ぶこと、
その前提として、失敗の見える化、失敗をオープンにしやすいような環境を作ってやること、
が本書の肝の部分です。

ちなみに、日本人に起業家が少ない(世銀のデータによれば、OECD諸国の中で最下位だそうです)理由として、
日本人は、起業失敗に対する恐怖心が一番強いという意識調査がでているそうです。
我々日本人こそ、失敗に対する考え方(マインドセット)を切り替える必要がありそうです。

その他、ホットドッグ早食いの小林尊氏や、F1、ツールドフランス、サッカー等、
興味深い実例が挙げられており、退屈せずに学べるビジネス書になっています。

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