人権学習

孫クンが小学校からカタカナの書き取りの小テストを持って帰ってきました。
よく見ると、”ヲ”だけが書けておらず減点されています。
朝活でスパルタ教育を施してきた妻は納得できず、なぜ”ヲ”だけ書けなかったのかと問い詰めるのですが、「だって、名前に”ヲ”の入った恐竜がいないんだもん」との言い訳には、なるほどと思わせる説得力があります。
福井県立大学恐竜学部への入学を夢見る孫クンにとっては、恐竜だけがカタカナを勉強するモチベーションになっているようです。

幼稚園を卒園し半年ほどですが、小学校にもだいぶ慣れてきたのか、夏休みを終えても嫌がることなく「早く学校に行きたい」などと、月曜の朝になると会社を辞めたくなる私の血をひいているとは思えないほどポジティブです。

そんな孫クンが持ち帰ってきた宿題が、我が家をざわつかせました。

担任の先生からのプリントには、人権についての作文を、保護者がよく説明した上で、例文を参考にしながら書かせてください、と書いてあります。
「ハイキュー!!」のキャラクターならスラスラ諳んじることのできる娘ですが、人権については、踏みにじることはできても、教えることはできそうにありません。

人権についての教育は保護者に丸投げかよ?と思いつつ、先生からの説明はなかったのか尋ねると、「皆をニコニコにするにはどうすればいいか書け」と言われたとのこと。
嚙み砕いて説明いただきありがたいのです、噛み砕きすぎて、既に人権の原型をとどめていません。
原稿用紙にして、3枚分はあろうかと言う長文の例文は、どう見ても小学1年生が書いたものとは思えません(決めつけてはいけませんが)
私などは、今だに”ソ”と”ン”や、”ツ”と”シ”の書き分けが苦手なくらですから、小学1年生に書けるのは、せいぜい一、二行程度でしょう。

孫クンが書いた下書きも「おともだちに、いやなことをされて、かなしかったです」以上。

この一行で、どうやって話を膨らませるか、人権などと言う大人でも戸惑うような課題を出され、家族全員が頭を悩ませることになります。
土日の二日間で提出しなければならないため、おそらく他のお家でも、家族の皆さんが右往左往していることでしょう。
普段は皆私のことを、幼稚園児並の字しか書けないだの、活舌が悪くて何を言っているのかわからないだのと迫害しているくせに、こういう時だけ、ジーコ(=私)から教えてもらいないさい、などと丸投げしようとします。

一行じゃどうしようもありませんので、このエピソードをどう膨らませるかが大人の腕の見せ所ですね。
カウンセラーさながらに、先ずはお友だちに嫌なことをされた時の状況を詳しく聞き取っていきます。

初登校の日、教室で配られたコンパスを手にした隣の机のIちゃんが、孫クンの真新しい消しゴムを指さし衝撃的な一言を放ったそうです。
「消しゴム、ブッ刺していい?」
「えっ?ダメ!」
ブスッ!

というのが当時の状況だったようです。
普段はコミュニケーションモンスターの孫クンですが、幼稚園ではお目にかかったことのないような”猟奇的な彼女”には、戸惑いもあり”ダメ”の一言が精いっぱいだったようです。
その後孫クンは先生に相談し、Iちゃんからもゴメンナサイの言葉をもらい、めでたしめでたしだったのですが…。
あれ?そう言えば…、Iちゃんって、毎朝孫クンを迎えにきてくれる子で、お互いファーストネームで呼び合う親密な関係じゃなかったっけ。

そうです、すでに読者の皆さんはお気づきのとおり、Iちゃんは孫クンと仲良くなるきっかけが欲しくて、彼の消しゴムをブッ刺したに違いありません。
それがわかれば、もうこっちのもの。
たった一行の文章を、人権の問題にまで膨らませて見せようじゃありませんか。
無駄に長い人生経験を持つ私としましては、不器用な女子が孫クンと友だちになるきっかけが欲しくて意地悪したけど、お互いの気持ちをちゃんと伝えれば仲良しになれるんだよ、というハッピーなストーリーにもっていくため、あの手この手で孫クンに誘導尋問をしかけます。

ところが、「お友だちは、どうしてダメって言ったのに、孫クンの消しゴムをブッ刺したんだろうね?」と誘い水を向けても、孫クンからは「ぜんぜんっ、わからない」という素っ気ない答えしか返ってきません。
フィクションにならないよう、極力孫クンの口から言わせたいのですが、恐竜やカブトムシで埋め尽くされている小学1年生の頭の中には、女心が入り込む余地はないようです。

「今は、仲良しになったんだから、孫クンのことが嫌いで意地悪したんじゃないよね!」と強引に結論に持っていくと、さすがの恐竜バカも「うん、そうだね。それはわかる」と納得してくれましたので、何とか原稿用紙一枚程度の作文が完成し、めでたしめでたし。

さて、一段落したところで、心の汚れた大人たちは、ついつい物事の裏を邪推してしまいます。
こんな高度な課題が週末の土日だけで片付くはずがない。
ましてや、大人の手を借りざるを得ないのなら尚更。
きっと先生は、夏休みに出さなければならなかった宿題を出し忘れていたに違いない。
というのが大人たちの結論です(なんの根拠もありません。先生ゴメンナサイ)

こういう怪しい話を聞きつけると、すぐ口に出してしまう孫クンなので、「先生!この宿題、夏休みに出し忘れてたんでしょ💛」などと言いださないよう、厳重に口止めしたのは言うまでもありません。

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