岸井ゆきのさん扮する聴覚障害のボクサーが、プロデビューを果たす姿を描いた作品ですが、スポ根モノとは少し違います。
だからと言って、ボクシングシーンがなおざりに描かれているわけではなく、素人目で見ても岸井さんの動きは素晴らしく、相当トレーニングを積んだことが窺えます。
主人公が戦っている相手は、リング上の対戦者ではなく、あくまでも自分自身です。
恐怖心、周囲に心を閉ざす頑なな自分、逃げ出したい気持ち、そんな悶々とした感情と向き合い、不器用ながら無我夢中で戦う姿が胸を打ちます。
内面の葛藤を、セリフに頼らず、表情だけで表現する岸井さんの演技は見事です。
また、主人公を支えるジムの会長を演じる三浦友和も、良い味を出しています。
主人公も、ジムの会長も、ジムの仲間たちも、勝ち負けで色分けすると、決して勝者とは言えないんですが、戦い抜いてきた道のりが、主人公の心に微妙な変化を与え、ラストに爽やかな余韻を残してくれます。