
監督ヴィム・ヴェンダース、主演役所広司により、主要な映画祭で高評価を得た作品です。
平凡な日常での些細な出来事を、ドラマティックに映し出すことで、人生の美しさを感じさせてくれる良作です。
役所さん演じる主人公からは、辛い過去がぼんやりと感じられますが、ヴェンダースの演出は、多くを語ってくれません。
あくまでもそれを類推させるにとどめたことでむしろ、主人公の人生が美しさに彩られているだけではなく、同時に悲哀も抱えていることを感じさせます。
また、時に平凡な日常のペースが乱されることから引き起こされる、主人公の苛立ちや不安も描かれており、生きていく上での息苦しさとの共存も描かれています。
淡々と生きて死んでいくような人生は、美しくもあり、虚しくもあり、見る者それぞれの感じ方に委ねられます。
主人公と一期一会で触れ合う、柄本時生さんをはじめとした共演者たちも、良い味をだしています。
監督自らが選曲した挿入曲も、映像と一体となって主人公の心象風景を物語ってくれます。
主人公を慕う姪の役名を”ニコ(ニューヨークパンクのアイコン)”としたことからも、挿入曲が流れていた時代への郷愁が伝わってきます。