この手のイギリス映画には弱いイダログです。
“この手”とは、「リトル・ダンサー」とか「シング・ストリート」みたいな、
不況に喘ぐ地方都市で、夢中になれる何かを見つけ、
閉塞した現状を打開しようと苦闘する少年少女の物語のことです。
本作は、イギリスの労働者階級の中でも、さらにマイノリティーに属する、
パキスタン移民の青年が主人公です。
イスラムの道徳に縛られ、地方都市で燻っているしかない生活に悶々としながらも、
偶然耳にしたブルース・スプリングスティーンの歌に背中を押され、
外の世界に踏み出していく、実話を基にした物語です。
時代設定は、サッチャー政権末期の1980年代後半ですが、
その当時の”ボス”は既に”過去の人”になっていて、
一つ上の世代の”ダサい”アイドルとして扱われています。
1980年代後半、まだスプリングスティーン真っただ中にいた私にとっては意外な事実です。
原題は「Blined By the Light」で、
ボスのデビューアルバム、「Greetigs from Asbury Park,N.J.」に収められていたデビューシングルからの引用ですが、
この曲は、物語の重要なキーも担っています。
それ以外にも、ボスへのオマージュが散りばめられていますが、
映画自体は2019年の作品なので、私のようにスプリングスティーンへの特別な思い入れがなくても、
音楽に対する普遍的な思いは、世代に関係なく心に響くんじゃないでしょうか。
憧れのミュージシャンが奏でる音楽や歌詞が答えに導いてくれるわけじゃく、
最後は自分自身で答えを見つけなきゃならないんですが、
音楽は、人の心の奥底に眠っている、自分でも気づかない思いや勇気を引き出す力を、
間違いなく持っているんだ、って思わせてくれる佳作です。