インバウンド

前回のお題ともかぶりますが、外国人が困っている場面に出くわすと、声がかけにくくて、つい見て見ぬ振りをしちゃいませんか。
そもそも、咄嗟の時ほど、ありふれた英会話ってなかなか出てこないんですね。
Hello! じゃなさそうだし、Excuse me だと、困っているのは自分ですか?になっちゃいます。
そうそう、Can I help you? でいいんでしたっけ。

ところが、見て見ぬ振りをしようとしても、厄介事の方から寄ってくるのが、ヒーロー映画の定番です。

一たび外に出たら敵の殺し屋から身を隠すため、殺気を消すオーラを発動しているからでしょうか、見て見ぬ振りをうしようとしても、道を聞かれたり、カメラのシャッターを頼まれたり、ぞんざいに扱われることが多いイダログです。
外敵から身を隠すための擬態の術が効きすぎて、一般市民の目には、私の姿がただの間抜けなオッサンにしか映っていないようです。

不思議なことに、この傾向は海外にでかけても変わりません。
アメリカに出張した時も、前から歩いてきた老婦人から「今、何時だ?」といきなり聞かれたり、駐車場では「ここの駐車料金は、どうやって払ったらいいのか」などと、日本語で尋ねられてもよくわからないようなことまで質問され戸惑ったことがあります。

極めつけはニューヨークの地下鉄です。
経験したことのある人はご存じかと思いますが、NYの地下鉄は突然行先が変更になったり、途中で運行を中止したり、乗客がパニックに陥るようなことを平気でやってのけます。自由の国ですね。
片手にスタバのコーヒーを持った、いかにもニューヨーカー然としたビジネスマンが「この地下鉄、どこまで行くとね?」などと、ニューヨーカーとは対極にあるような貧相なアジア人に聞いたってわかるわけないでしょ、って感じなんですが、これは多分私のキャラクターの問題ではなく、アメリカ人って、アメリカにいる人は全てアメリカ人と思い込んでるからでしょうか、移民大国の度量の広さを感じました。

話を戻しますが、インバウンドで賑わう最近の日本ですから、私の住む地方都市にも大勢の外国人がやってきます。
相変わらず道を聞かれたりすることが多い、人畜無害なイダログなんですが、最近の新手はスマホ片手の外国人です。

ある時は、乗換駅のホームのベンチでボーっと座っていると、いきなり目の前にスマホを差し出されました。
画面には「ハカタ!ハカタ!」と連呼する、ムハンマドさんらしきオッサンが映っています。
どうやらアブドゥルさん一行は、ムハンマドさんと博多でうまくランデブーできなかったようです。
「ハカタが、どげんしたとか!」などと意地悪なことは言いません。
「ハカタ?OK、あっちのホームたい」と身振り手振りで、親切に教えて上げます。

そもそも、ハカタを連呼させるためだけに、わざわざスマホの画面を利用する必要があるのでしょうか。

またある時は、取引先へのアポイント前の時間調整で、福岡市の大濠公園っていう福岡城の外濠を利用した公園のベンチで黄昏ていたところ、突然背後から「助けて下さい!」と声をかけられました。
これは間違いなく組織から追われている人が助けを求めているに違いない、と思って振り返ると、オタクっぽい、多分韓国人の若者二人が、スマホを差し出して立っていました(フツーの韓国人には、BTSやBLACKPINKみたいな人はいないんですが、知ってましたか?)

なんの変哲もない、池を囲んだ公園にまで大勢のインバウンド客が押し寄せてくるのか不思議ですが、ニューヨークのセントラル・パークとかロンドンのハイド・パークみたいなノリでしょうか。

若者二人は組織から追われているような切羽詰まった感じはなく、一先ず身の危険はないようです。
確かに「Help me!」だったら「助けて下さい!」の日本語訳で間違いないんでしょうが、なんかちょっとこの状況では違和感があります。
ねっ、やっぱり外国語で何気なく声を掛けるのって難しいんですよ。

またいつものヤツかと思いながら、若者から差し出されたスマホの画面をのぞき込んだんですが、キムさんやリーさんは映っていませんでした。
だったら、何かヤバイブツの受け渡しを指示されるんじゃないかと、常に韓流サスペンスに巻き込まれることを妄想しているイダログなので、一応周囲から殺し屋に狙われていないか確認し、おそるおそる若者のスマホを手に取って耳にあてると「こちら○○警察署です」との日本語が聞こえてきました。
ほら見ろ、やっぱり犯罪絡みじゃないか!と思ったんですが、相手は極めてのんびりした口調。

さすがにオツムの弱い私でもわかりましたよ。
どうやら若者の一人がスマホを落とし、もう一方がそのスマホに電話をかけたら、拾い主の日本人が電話にでたんだけど、ちょっと何言ってるかわからない、っていう意味の「助けて下さい!」だったようです。
相手はお巡りさんなんですが、こちらも周囲の地理に明るいわけではないので、電話口で説明いただいた交番の場所を理解するのにまた一苦労です。

「この近くにミスドがあって、そこば通り過ぎた先にある○○交番で預かっとるげなよ」とざっくりとした道案内でインバウンド消費に貢献できたかなと満足してたんですが、その時はテンションが上がっていて気づかなかったものの、後で冷静になってみると、スマホでマップアプリを表示して教えてやった方が簡単だったんですね。

目には目を、スマホにはスマホを、ですね(って、ちょっと何言ってるかわからない)

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