西川美和監督、役所広司主演による2020年の作品です。
役所広司扮する、人生の大半を刑務所で過ごしてきた元ヤクザが、社会復帰を目指し苦闘する物語です。
正義感が強く優しい性格の反面、短気で、怒りの感情をコントロールできな主人公を役所広司が好演しています。
前科者の社会復帰はメディアでも取り上げられることが多く、その困難さは想像に難くありませんが、西川監督はそれだけにとどまらず、もう一歩踏み込むことで、社会全体の普遍的な問題を炙りだしています。
世間に馴染めず、再び道を踏み外しそうになりながら、周囲の支援にも支えられ、少しずつ改心していく主人公ですが、強い者が弱い者を叩く理不尽な社会にあっては、時に見て見ぬふりを強いられたり、周囲に同調し弱者を嘲笑しなければならなかったりします。
心を殺し、社会に”馴染む”ことと引き換えに、社会復帰を踏み出す主人公の葛藤を、役所広司は見事に演じています。
社会復帰の第一歩を踏み出せたことで、周囲からは祝福され、別れた奥さんや子どもとも再会できそうになり、人生最良の時がめぐってきた主人公ですが、少し俯瞰して見ると、社会全体が抱える問題は何も解決されておらず、見る者の心には何故か苦い思いを残すのが、むしろ本作の凄みでもあります。