
2023年、イタリア、ルーマニア、イギリスの合作による、95分の作品です。
原題は、「Nowhere Special」となっています。
正確な意味は汲み取れないのですが、特別な場所などどこにもない、もしくは、どこにでもあるありふれた光景、といった感じでしょうか。
病により余命いくばくもないシングルファーザーが、幼い子どもの養子縁組先を探す物語です。
本作の監督が実際に目にした新聞記事に着想を得た作品とのことで、実話に基づいています。
あらすじを聞いた限りでは、いかにもお涙頂戴のお話を想像してしまいますが、95分の小ぶりな作品は、観客を泣かせようという押しつけがましさを微塵も感じさせません。
哀しいBGMが流れるでもなく、無念の思いが語られるでもなく、父、子、周囲の人々は、悲劇的な状況に淡々と向き合っていきます。
抑制の効いた演出だからこそ、画面からじわじわと滲み出す、父と子の哀しみに共振してしまい、一つ一つのシーンに目頭が熱くなることを禁じえません。
小ぶりで地味な作品ながら、心を揺さぶられる傑作です。
