あんのこと

画像引用:Amazon

胸を締め付けられるような鑑賞体験を味わわされる作品です。

河合優実さん演じる主人公の杏は、幼いころから母親に虐待され、12歳で母親から売春を強要されます。
覚醒剤にも手を染め、腕はリストカット痕だらけの少女です。
佐藤二朗さん扮する刑事との出会いをきっかけに、母親とも縁を切り更生を目指しますが、コロナ禍が彼女の運命を邪魔します。

単なる薄幸な少女を描いたフィクションなら、そこまで惹きつけられないんですが、新聞記事にもなった実話に即して描かれているため、胸が締め付けられるのに目を背けられなくなります。

河合優実さんは、義務教育も終えておらず、敬語も話せなければ、漢字もかけない杏が憑依したような、凄みのある演技を見せてくれます。
終始半開きの口元で、あらたな一歩を踏み出すため、健気に漢字の書き取りに取り組む杏の心情を見事に演じ切っています。
また、佐藤二朗さんも、弱者を虐げる存在に対する純粋な怒りを湛えながら、一方で、身勝手な欲望を抑えきれない弱さを持つ、複雑な人格の刑事を見事に演じきっています。

抗いようのない大きな力で何億人もの人々の人生が狂わされましたが、その一人ひとりにかけがえのない人生があったことを、杏が象徴してくれているようです。

タイトルとURLをコピーしました