伝統的なマーケティング理論(特にコトラー)に、エビデンスで切り込んでいく意欲作です。
従来型のマーケティングが、ヘビーユーザー(ロイヤルユーザー、優良顧客)を重視してきたのに対し、本書は、ライトユーザーやノンユーザーを取り込むことがブランドの成長、拡大には不可欠であることを、エビデンスを引用し(所謂、”科学”して)説いていきます。
以前紹介した「未顧客管理」や「ワークマン式『しない経営』」にも通じる考え方ですが、顧客の離反はブランドがコントロールできない局面で起こるため、新規顧客の獲得こそ成長に欠かせないということです。
新規顧客を取り込むための、ブランディングや販売促進の在り方に関しても、競合するブランド間には明確な差別化はあり得ないと言い切っています。
顧客は、ブランド間の特性の差を意識して購買しているわけではなく、長期間にわたって蓄積されてきたブランドアイデンティティ(例えば、NIKEのスウッシュへの認知の高さ等)によってブランドを選択していると述べています。
従って、重視すべきは差別化ではなく、メンタル・アベイラビリティ(ブランド想起の高さ)とフィジカル・アベイラビリティ(購買機会の高さ)であり、顧客は、できるだけ選択の煩わしさを避けようとするため、誰もが認知していて選択に迷わず、しかも欲しい時に手間なく購入できるブランドを重視する、と述べられています。
至極当たり前のことでもあり、鶏と卵の関係のようでもあり、ロイヤルティの高い顧客を重視し、差別化に拘るマーケターにとっては反発を覚えるかもしれませんが、それらの論拠をエビデンスで検証していくことにより、ブランディングに対する柔軟な思考を鍛えることができます。