
タン氏へのインタビューを本に纏めたものです。
コロナ対策で有名になった人ですが、コロナにとどまらず、
教育や福祉といった、国を治めるためのあらゆる活動に関し、
デジタルを駆使して、社会がより良い方向に進むようサポートしている人です。
本書の表現を借りると、”デジタル民主主義”の中心人物です。
タン氏がマスコミに紹介され始めた最初の頃は、無政府主義者といった形容が見られましたが、
本書読むと、無秩序を好むアナーキストとはまったく異なる実像が浮かび上がってきます。
“公益に資する”ことを自身の使命としており、
“何かを変えたい”という願望を持っていない点が、氏の面白いところです。
Aという政治思想とBという政治思想のどちらを好むかということではなく、
AとBとの間の議論が、公平に、スムースに運び、その結果、最大限の共通項が実現され、
国民がより良い生活を送れるよう、自身のスキルを役立てることを最大の使命と心得ています。
とりわけ感銘を受けたのが、デジタル化に際しては、
デジタルを使えない層の人々に基準を合わせなければならないと言っている点です。
デジタルを使いこなせない、例えば高齢者が、決して置き去りにされないような社会こそが、
デジタル化の大前提だと言っている点です。
常に弱者や少数者に寄り添った考え方にブレがないのは、
タン氏がトランスジェンダーで、体が弱く、いじめに会い、
中学中退という経験があったからなのかもしれません。
国の運営に限らず、ビジネスの世界でも思い当たる節があります。
何から何までスマホでの処理を強いる行政手続きや、
デジタル弱者を置き去りにするようなEC偏重のマーケットにも、
同様な矛盾や違和感を感じずにはいられません。