先日紹介した加納愛子さんの「イルカも泳ぐわい」の帯に推薦文を書いている人で、
同作の本文中で、加納さんが賞賛していたため読んでみました。
今まで味わったことのないタイプのエッセイです。
エッセイというと、実際に経験したバカ話が多いんですが、
この方の作品は、妄想が主要なテーマになっています。
最初は事実から派生したエピソードであっても、
妄想があらぬ方向に展開していって、
終いには奇妙な笑いで読者を煙に巻いてくれます。
加納さん同様、言葉の選び方が秀逸なので、
妄想でありながら、文章の巧みさで笑いのツボを刺激してくれます。
ちなみに、活動の主軸は英米文学の翻訳ですが、
マニアの間では”岸本佐知子による翻訳作品”というのが、
一つのカテゴリーとして存在しているかのようです。
夢をテーマに、筋の通らない話を展開する文学作品は、
夏目漱石の「夢十夜」とか、
私が子どものころ愛読した内田百閒の作品の中にも「冥途」とかがありましたが、
妄想は、夢とはちょっと趣向が違い、そこに不穏な空気は漂っていません。
アメトーークなんかの楽屋ネタみたいに、事実に基づくバカ話じゃなきゃ笑えないよ、
って言う人には向いてないと思いますが、
幼稚園児のような奇妙な妄想話を、微笑ましく受け止められる人にとっては、
心がほっこりするような読後感が味わえるエッセイです。