やや混雑した山手線のシートに腰かけていると、目の前にいかにも仕事のできそうな女性会社員が立ちました。
前期高齢者に達し、シルバーシートにはまだ抵抗があるものの、普通席なら周囲の目を気にせず座っていられる年齢になったイダログです。
ところがふと視線を上に向けると、女性のお腹がやや膨らんでいるのが目に入りました。
生来鈍感な男なので、妊婦さんなのか、それがその人の身体的特徴なのか判断がつきません。
何か他に手がかりはないものかと視線を彷徨わせると、マタニティーマークらしきものがバッグからぶら下がっているのに気づきました。
らしきもの、と自信なさげに言うのは、ディズニーのキャラクターが描かれたプレートだったからです。
マタニティーマークに注意を払う年齢ではありませんので、オーソドックスなマタニティーマークでさえ、どんなデザインだったかうろ覚えです。
例の、目をつぶったママと赤ちゃんが描かれたプレート(後でネットで確認しました)なら、さすがに鈍感な私でもピンときたかもしれないのですが、ディズニーだと判断に迷います。
そもそも、できるだけ世間の注目を集めないよう、都会の片隅でひっそりと生きているイダログなので、席を譲るのは苦手です。
やむを得ない場合、例えばお年寄りや体の不自由な人が目の前に立てば、さすがに勇気を振り絞って譲りますよ。
一方で、そんな時も、自分自身がすでにお年寄りの定義にあてはまるのではないか?でまた迷います。
目の前に立ったお年寄りが、はたして自分より年上か年下かで迷っているうちに、隣の女子高生なんかがすかさず席を譲ってくれて、居心地の悪い思いをすることがあります。
それはさておき、今回がやむを得ない場合なのかどうか、ただ単にその人の身体的特徴だったら、むしろ失礼です。
前期高齢者が悩んでるんだから、誰か救いの手を差し伸べて席を代わってやれよ!と心の中で悪態をついた挙句、失礼になっても構うものかと意を決し「どうそ座って◎$♪×△¥」と、モゴモゴ呟きながら席を立ったところで、ちょうど降車駅に着いてしまいました。
結局、席を譲ったのか、ただ単に降車しようとしただけなの、おどおどしながら挙動不審を晒しただけのイダログでした。
後でネットで検索してみると、ディズニーのデザインのマタニティーマークもあるんですね。
よく見ると「おなかに赤ちゃんがいます」なるメッセージも記されています。
マタニティーマークぐらい知っておくべきでした、と一つ目の後悔。
パスポートの更新を忘れていて、気づいたら期限切れ3日前でした。
7月から大幅に値下げされるのはわかっていたのですが、万が一のことも考え、期限切れ前の更新を選択。
色々と悪く言われるマイナンバーカードですが、スマホで簡単に申請が完結してしまう便利さには感動してしまいます。
7月からは値下げとともに、5年期限がなくなるとのことでしたので、10年で申請。
マイナポータルから手順通り進めると証明写真のアプリや直筆サインのアプリも自動的に起動されるんですが、折角ならと、ネットで高評価の美顔に撮れるアプリを使いました。
確かに、写真映り良く撮れています。自分じゃないみたいです、ってそれじゃ困る?
ふと10年後のことをお考えてしまいました。
65歳から75歳への10年の経過は、20歳から30歳とはわけが違います。
きっと10年後には、見る影もないほど老いさらばえているに違いありません。
入国審査の際、何故か話しかけられることの多いイダログなので、5年ぐらい経過したあたりから「この写真は本当にお前か?」などと不審な目で見られ、別室送りになるのではないかと心配になってきました。
これまでどおり、5年にしておけばよかったかな、などと少しだけ後悔。
月に1回程度、実家の父の様子を見に帰ります。
前期高齢者の父親ですから、ご想像のとおり、父は、すでに生きる化石のような状態になっています。
それでも毎日の晩酌を欠かさない人なのですが、もはや”健康のため、少しはアルコールを控えたら”という脅し文句はまったく説得力がありません。
ウイスキーを焼酎で割る無茶な飲み方は相変わらずですが、思う存分飲ませています。
父は年々、使用するセンテンスの数が減少してきており、私との会話も「○○は元気か。○○は元気か」などと親族の名前を一通り上げた後、「お前(=私)はいつまで働くのか」で締めくくられるのがいつものパターンです。
会うたびに父から発せられる言葉が定例化しているため、私はこれを”会話のサーキットトレーニング”と呼んでいます。
ところが先日実家に帰った時は、いつもと少しだけ違っていました。
サーキットトレーニングを終えると、テレビの画面には、父の日にプレゼントを贈る小さな子どもたちの映像が流れています。
いつもは同じことしか話さない父が、何故かその日に限って「今日は父の日か・・・」と呟きます。
もちろん、生きた化石に父の日のプレゼントなどという洒落たものは用意していません。
ちょっぴり後悔したのですが、私のような前期高齢者も、父の日にはプレゼントを用意しておくべきなんでしょうか。
