寿司食いねえ

「江戸っ子だってね。寿司を食いねえ」とは、浪曲「森の石松」の台詞ですが、テレビから時代劇が消えた今となっては、寿司と聞いて「次郎長一家」を連想することもなくなりました。
かつては、お寿司屋さんって言うと「次郎長」「石松」「大政」「小政」などの店名が多かったので、ネットで日本の寿司屋さんの何割ぐらいが「清水の次郎長」にあやかった店名をつけているか?とAIに尋ねると「少なくとも十数軒は確認できます!」と自信たっぷりに答えてくれました。
さすがのAIも、需要のなさそうな質問にはまともに答えてくれません。

カウンターに座って食べる正統派のお寿司屋さんが苦手です。
代金がいくらになるかわからないっていう怖さもあるのですが、独特のマナーみたいなのを強いられる緊張感が苦手です。

そもそも、横に並んで食事をすること自体に違和感があるのですが、皆さん、横に並んで人と食事する時って、どこを見ながら食べたり話したりしてるんですか。
至近距離で相手の顔を見ながら話すのって、なんか気恥ずかしいし、男同士だったら余計気まずいですよね。
そんなこともあって、仕事が絡んでいない限り、カウンターに座って寿司を食べる機会は皆無です。

醤油はシャリではなく、ネタにつけなさい、って言うルールぐらい、江戸っ子ではない私でもわかっています。
わかっていますが不器用なものですから、ネタにつけようとして寿司をひっくり返す時に、ネタとシャリがバラバラになりそうなことがあり、余計に素人丸出しを晒してしまいます。
大将の目を盗んで、サッとシャリの方に醤油をつけて口に放り込むんですが、見つかって睨まれやしないか気が気じゃありません。 
軍艦巻きとかの場合は、ガリを刷毛みたいに使って醤油を塗るそうですが、なんでそんな職人の技みたいなことをしなきゃいけないのでしょうか。

箸じゃなくて手でつまみなさい、ってこともかってますけど、指先がべとべとになるのって嫌じゃないですか。
お客さんと一緒の時は、お客さんが箸を使うか、手でつまむか、横目でちらちら伺いながら、箸でも大丈夫そうなのを確かめてからおもむろに食べ始めます。
もしかして、そもそも箸で食べてるから、ひっくり返して醤油をつける時失敗するのでしょうか。

その点、回転寿司は気楽でよろしい。

先日は孫クンの生誕祭(娘の家では、孫クンの誕生日をそう呼んでいます)だったのですが、その前日を”生誕祭前夜祭”と称し、回転寿司をおねだりしてきました。
孫クンのリクエストは、くら寿司です。
エンタメに振り切った回転すしは初体験なので少しだけワクワクします。
噂には聞いていましたが、寿司屋と言うよりファストフード店ですね。

愛用されている方はご存知でしょうが、先ずはその安さとネタの豊富さに驚きました。
予約、入店後の席への案内、オーダー、そして会計まで、全てがデジタルで効率的に処理されていきます。
最初から最後までシステムに従って流されていると、少しだけレーンを流れるネタの気持ちがわかった気になります。

タブレットだけでなく、各自のスマホでもオーダーできるシステムのため、皆が思い思いにスマホでオーダーを入れていきます。
もうその時点で、ネタの豊富さに何を頼んだらよいか呆然としてしまうイダログです。
オーダーを入れると、数分後にはレーンに次々と注文の品が届きますが、工場のラインを部品が流れてくるように、次々にネタ(だけでなくビールまで)が高速で手元に届くので、取り損ないはしないか気が気じゃありません。

ちなみに、プッシュ式の醤油差しがテーブルに備え付けられていてネタに数滴垂らす方式なので、大将から「シャリじゃねえよ、ネタにつけなよ!」と怒られる心配もありません。

各テーブルに”びっくらポン”って言う、”くじ”もあるんですね。
5皿で1回ひけて、当たるとカプセルトイが落ちてくるんですが、課金すると少しだけ確変が入るらしいという情報を、孫クンの幼稚園の同級生が教えてくれました。
いったい私たちは、寿司屋で何をやっているのでしょうか?

高速で届いた寿司を食べ終えるや、素早く皿を投入口に投入し、孫クンがくじを引くという慌ただしいサイクルが延々と続きます。
しかも、皿は投入口に消えていき積み上がることがないため、自分が食べた量を正確に把握しきれません。
果ては、忙しすぎて自分が寿司を食べたのかどうかさえ判然としなくなります。

孫クンは早々に、寿司よりも充実したサイドメニューに興味が移っており「そろそろフライドポテトを頼もうかな」などと、もはや無法地帯です。
娘は「五条悟」の缶バッジを引当ててご満悦でしたが、高齢者にとっては、会計を済ますと何かの試合を終えた後のような疲労感と達成感が残りました(達成感って食事に必要でしょうか?)。

正統派の寿司屋だろうと、くら寿司だろうと、結局どちらで食べても緊張してしまうイダログです。

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