
松永弾正久秀を主人公とした珍しい時代小説です。
作者は、現在Netflixでヒット中の「イクサガミ」の原作者でもある今村翔吾氏です。
松永久秀は、数多の歴史小説の中で希代の悪人として描かれることの多い人物ですが、最近では、その悪行は後の世に脚色された信憑性の低いものであるとも言われています。
本作は、そのような史実も踏まえながら、久秀を魅力ある人物として描いています。
ストーリーは史実をなぞって展開しますが、単に悪人と呼ばれた男の一代記にとどまらないのが本作の魅力です。
根底に貫かれているテーマは、久秀に自問自答させている、人はなんために生まれ、なんのために死んでいくのか、という難題です。
神や仏は本当に存在するのか、存在するのであれば、何故罪もない者たちが乱世の中、理不尽に死んでいくのか。
久秀は、神仏を破壊してでも、人間本位の世を作ろうを奮闘する人物として描かれています。
本作の語り部でもある織田信長もまた久秀同様、神仏を恐れず天下統一を成し遂げた人物であり、同じ気概を持った久秀に共感を感じていたという設定になっています。
人が夢を紡ぎ、果たせぬ夢をまた誰かに引き継ぎ、引き継いだ者がまた夢を紡いでいくこと、それが人の生きる意味として浮かび上がってきます。
また、民主主義とはなんなのか、実のところ、民衆は支配されることに安心感を覚えているのではないか、といった今日的なポピュリズムの問題も突き付けてきます。
久秀は常に自問自答を繰り返しますが、それは読者への問題提起でもあるようです。
