スポーツの秋

孫クンが「腕の調子がおかしい」と言い出しました。
「ビリビリする」と表現するため、何かの病気なのかと心配しましたが、どうやら生まれて初めて手が痺れるという経験を味わったためだったようです。
なぜか自分の左手を背中に回し、ソファーとの間にサンドイッチした体勢で、「ゲゲゲの鬼太郎」を微動だにせず見ていたものですから、痺れずはずです。
大人であればすぐに気づくところですが、孫クンはどうやら別の原因を疑っていました。

足の遅さ、と言うか、競争心が極めて低いことで定評のある孫クンだったのですが、何故か年長さんの彼のクラス(くま組)には同じような欲のないお友達ばかりが集まっており、クラス内の短距離走で1位になってしまいました。
必然的に、間もなく開催される運動会では、クラス対抗リレーの選手、しかもアンカーに選ばれてしまい、本人や家族はもとより、先生たちまで驚かせた孫クンです。
アンカーともなれば、これまで他人と競うことに興味を示さなかった孫クンもさすがにモチベーションが上がり気味です。
先ずは形から入ろうとばかりに、新しいシューズを購入し、自主トレ開始しました。

シューズ選びで孫クンの目にとまったのが、ムーンスターのジンライというシューズです。
“カミナリスキル”というどういう効果があるのかよくわからないコンセプトですが、いかにも速く走れそうなデザインはキッズの心を捉えて放しませんでした。

ところが、普段は子どもの自主性を尊重する教育方針を掲げ「孫クンが自分の意思で決めたことだから、ジージとバーバは口を出さないで!」などと親の意見に耳を貸さない娘なのに、自分の嗜好に合わないものを孫クンが選ぼうものなら話は別らしいのです。
家庭内ではキャラクターがデザインされた衣類や雑貨は、靴も含めて原則禁止、アンパンマンのコップや皿は、私の家に来たときのみ使用が許可されています。
今回孫クンが選んだジンライも、運動会だけに限定して許可されるようで、普段は絶対履いてはならないなどと、特定の案件に限っては子どもの自主性を尊重しないのですから不思議です。

さあ、ここで伏線を回収しますよ。
孫クンは、腕が痺れた原因をか彼なりに考えていたようで、昼間ジンライを履いて練習したため、カミナリの電気が腕に残っているのではないかと推理したようです。
心理学にプラセボ効果という言葉がありますが、カミナリの威力で足が速くなったと信じ込んでくれれば、実力以上の力を発揮してくれるのではないかと期待しています。

孫クンの”くま組”さんですが、おちゃらけた男子に対し、女子は何故か負けん気の強いしっかり者が揃っています。
「ミッチャン(孫クン)にバトンを渡すまでに、アタシたちが大差をつけておくから心配しないで!」と励まされ、アンカーの重責に耐えながら、孫クンは練習に余念がありません。
リハーサルの結果を見る限り、女子で上位に食い込み、男子で抜かれる、というパターンを繰り返しているので、アンカーの孫クンには最下位でバトンがわたるケースがほとんです。
大差がついた最下位でバトンがわたれば、孫クンも過剰なプレッシャーに晒されないくていいかな、などとついつい考えてしまうのは、間違った親心、と言うか祖父心ですね。

勘の良い方は気づいたかもしれませんが、幼稚園生活最後のハロウィンでの孫クンのテーマは「ゲゲゲの鬼太郎」です。
長く伸ばした髪(片目を隠さないと鬼太郎さんになれません)をセリアで買ってきたクマちゃんのピンで留め、最後に競り負けるのが心配な祖父母の気持ちを他所に、アンカーに選ばれたことが嬉しいのか、順位には頓着せず嬉々として練習している孫クンです。
中学の頃、部員が彼女一人だけしかいない陸上部に所属していた娘も根っから負けん気が強く、ついつい孫クンへのコーチにも熱が入ります。
「何やってんのよ!世界陸上見たでしょ!」と、何の説得力もない激を飛ばしています。

タイトルとURLをコピーしました