見て見ぬふり

孫クン「A君が泣いてますよ。抱っこしてあげたら、きっと落ち着きますよ」
A君パパ「こいつ、重いんですよ」
孫クン「”こいつ”とか言っちゃダメですよ!」
A君パパ「・・・」

週一でスイミングスクールに通う5歳の孫クンですが、プールサイドで泣きながらお父さんの後を追いかける友だちのA君を見つけるやいな、おもむろにA君パパの前に回り込み、恐れ多くも意見したのが冒頭の会話です。
初対面の相手に対しても、空気を読まず話しかけられるのは孫クンの最大の長所でもあるんですが、不躾すぎるのが心配でもあります。
スイミングスクールを訪れるパパたちには、ヤカラさんやDQNさんはいないと思いますが、時には空気を読んで見て見ぬふりをする勇気(そんな勇気はありません?)も学んでもらいたいものです。

小心な小悪党の私は、勇気を振り絞って見て見ぬふりをすることなんかザラにありますよ。

“見て見ぬ振りをする”を辞書で引いてみると、

実際には見ていたのだが、見ていなかったように振る舞う。また、とがめないで見逃す。

などと書かれています。
前段部分は、そのままの意味ですが、問題は後段部分ですよね。
職場にゴミが落ちてたら、さすがに小悪党の私でも拾いますよ。
けど、得たいの知れないティッシュが公道に落ちていて、周囲にはゴミ箱もない、っていう状況で、KGBの暗殺者が神経ガスを沁み込ませたかもしれないティッシュを素手で拾えますか?

駅のホームなんかで、コーヒーの空き缶が、さも、捨てたんじゃありません、ただ置いているだけです、みたいに偉そうな顔して、ベンチの足元に置かれていることがあります。
まあ、近くにゴミ箱もあるし、拾ってもいいか、ってなりますよね。
ところがそんな時に限って飲み残しが入っているんです、
小悪党がたまに正義感を発揮するとそんなもんです。

空き缶を持ち上げたとたん指先に飲み残しの重みが伝わってきて、けどそれをもとの場所に戻すと、あいつ空き缶をベンチの下に捨てやがって、ジジイのくせに、なんて思われそうなんですが、かと言ってたっぷり飲み残しが入ったコーヒー缶をゴミ箱に捨てるのは、さらに罪を重ねるようで、いったいどうしたら良いのでしょう。
洗面所を探して飲み残しを処分した後、あらためてゴミ箱までもってくるって、そこまでしないと、私の日頃の罪は許されないんでしょうか。

って言うか、そんなことで窮地に陥る人なんていませんよね。

電車の車中で空き缶に遭遇するともっと厄介です。
座席の足元に空き缶を見つけた時の緊張感といったら、決して刺激しないよう、微動だにせず降車駅まで耐えなければなりません。
万が一にでも中身が入っていて、うっかり自分の足が触れ、車内を転がしてしまったら一大事です。
逆に、中身をまき散らしながら、自分の方に向って転がってくる空き缶を見つけた時の恐怖といったらありません。
心の中で、来るな来るなと念じながら、勇気を振り絞って見て見ぬ振りをするはめになります。

話は変わりますが、繁華街なんかを歩いていると、テレビクルーに遭遇することがあります。
そんな時って、皆さんはどう振舞っているんでしょうか。

ご想像のとおり、小心な私は、クルーと反対側の歩道に渡って、彼らの視界に入らないよう、指名手配犯のようにうつむき、コソコソと逃亡するのが常です。
存在感がゼロの私なんか、100%見つかるはずがないんですが、万が一インタビューなんか受けた時のことを考えると、恐ろしくて近くを通り過ぎることができません。
いきなりマイクを向けられ、大統領選挙の争点はなんですか?とか聞かれ、テレビカメラの前で堂々と自分の意見を主張できる人って、ほとんど神のように尊敬してしまいます。

これって”見て見ぬ振りをする”って言うのとはちょっと違いますね。
後半部分の定義を満たしていなようです。

私はカーマニアではありませんので、冬は水が冷たい、夏は外が暑い、などと自分で自分に言い訳して、滅多に洗車せず、雨の恵みが埃を洗い流してくれる日を心待ちにしています。
あるいは、来週は雨が降るから、洗車は次の休みでいいや、などと自分を納得させ、先延ばしにすることもよくあります。
休みの日になるとせっせと洗車し、愛車をピカピカに磨き上げているオジサンたちを目にするにつけ、こんなことじゃダメだ、と自分を叱咤するんですが…、

設問:”見て見ぬ振りをする”を使って短文を作りなさい
回答:愛車に薄っすらと埃が積もっていたが、週明けには雨が降るので、見て見ぬ振りをした

っていうのは、定義にあてはまってますか?
“とがめないで見逃す”っていう部分が問題ですが「埃なんか載せてないで、身だしなみをしっかりしなさい!」などと、見て見ぬ振りをせず、しっかり愛車に注意しなさい、ってことですかね、って言ってることが支離滅裂でした。

タイトルとURLをコピーしました