バットマンというと、ノーラン・ライアン監督のトリロジーが最高峰のように思われますが、さほど期待せず鑑賞した本作は、ライアン作品とはまた違った魅力を持つ良作でした。
善と悪の境界線の曖昧さは、ライアン作品と同様ですが、本作のバットマンは、スーパーマンと共に異星人と闘うような超人ではなく、高い身体能力と強力な装備を身に着けているものの、あくまでも生身の人間です。
それ故に、ヒーローものと言うよりは、クライムサスペンスの趣が強く、「セブン」のような陰鬱な空気に包まれた作品に仕上がっています。
何度もリメイクされているため、あらすじは言うまでもありませんが、バットマンもヴィランのリドリーも、ともに復讐という同じ動機に突き動かされており、本作でも、善と悪の紙一重感がよく表現されています。
もちろん最終的には、バットマンは復讐というパーソナルな動機から一歩成長し、正義へ向かっていくんですが、本作ではその辺りの変化が、丁寧に納得のいくかたちで表現されています。
ロバート・パティンソンという俳優自身のエキセントリックなキャラクターも、本作における苦悩するバットマンを、よりリアルな存在に見せるには打ってつけだったようです。
陰鬱で張り詰めた描写が2時間56分続くため、やや疲労感を残す作品ですが、決して退屈さを感じさせず、人間ドラマとしても秀逸な作品です。