行き止まりの世界に生まれて

画像引用:Amazon

米国の衰退した工業地帯、”ラストベルト”を舞台にしたドキュメンタリーです。

白人のザック、黒人のキアー、東洋系のビンの3人が主人公で、メガホンをとっているのは、出演もしているビン・リュー監督です。

貧困、DV、スケートボードを共通項に繋がった3人の12年間の記録です。
(実際は、3人が12年間ずっと一緒に過ごしてきたわけではないようです)

邦題は、映画の内容を端的に表現しているものの、原題の「Minding the Gap」に比べると味気なさを感じます。

“mind the gap”は、地下鉄なんかで見られる案内です。
日本だと「ホームと電車との間に隙間が空いているところがあります。ご注意下さい」ですが、スケートボードの世界では「カッコよくギャップを越えろ」みたいなニュアンスのようです。

本作の”gap”には、スケボーコースの”gap”に加え、社会の格差とか分断みたいな寓意もありそうです。

少年の頃は、将来も考えず、スケボーに熱中しているだけの少年たちでしたが、12年の間にオトナの仲間入りをし、生活は大きく変化します。
ザックは、貧しいながらも妻子を得ますが、次第に酒浸りになり妻に暴力を振るうようになります。
キアーは、底辺の労働で自活の道を探りながら、暴力が原因で決別した亡き父との和解を図ろうとします。
ビンは、DVのトラウマを抱えながら、映画を通して過去と向き合います。

ここまでお話するとお気づきのとおり、「mid90s」とダブります。
20数年経っても、格差社会から取り残された少年たちの境遇は同じってことでしょうか。

「mid90s」がフィクションだったのに対し、こちらはドキュメンタリーなので、救いようがなくても、事実を語るしか術はありません。

映画は終わっても、彼らの人生はこれからも続いていくのが、ドキュメンタリーの切なさです。
希望の光は見えてきませんが、ほんの少しだけ光明が差しているように感じられるのは、本作が彼ら3人にとってのセラピーだからなのかもしれません。

ストリートでのスケボーシーンは「mid90s」よりも印象的です。

行き場のない日常は、スケボーによる疾走シーンで一気に解放されます。
少年たちが一番輝いている時間と、gap(貧困、格差、暴力)を乗り越えようともがく姿の対比が、フィクション以上に見るものの胸を打つ良作です。

タイトルとURLをコピーしました