俳優のジョナ・ヒルが、初めて監督業に挑んだ16ミリフィルムによる青春映画です。
主人公の少年は、母と兄との三人暮らしですが、
昔は遊んでいたらしい母も、まっとうな家庭を築くため、
今は子供たちに愛情と束縛を注いでいます。
マッチョをきどる兄は、少年に理不尽な暴力を振るうこともありますが、
DVと言えるほどのものではなく、
少年の方も、音楽やファッションに精通した兄には、憧れらしき感情を抱いています。
しかし、思春期の少年にありがちな、あたり前の日常に対する閉塞感からか、
母に反発し、スケボーを通じた悪い仲間との交わりにのめり込んでいきます。
その仲間も、ストリートギャングと言うほど気合の入った不良ではなく、
酒とタバコに加え、せいぜい立ち入り禁止区域で滑ったり、
医者から処方された薬をドラッグ替わりに服用したりする程度の悪さ加減です。
また、強い絆で結ばれているわけでもなく、日々、スケボーショップにたむろし、
他愛のない冗談を言い合い、時折悪さもしながら刹那的に生きています。
そんな薄っぺらさが、会話の中での、”cool”と言う言葉の連発に象徴されています。
皆それぞれ問題を抱えて生きているのに、それを成長の糧に昇華しきれず、
目先の楽しみばかりに目を奪われてしまう、そんなフツーの青春の一場面の切り取り方が、とても上手い映画です。
演じる少年たちも、それぞれにキラリと光る個性を持ったキャラクターを、自然体で演じきっています。
大多数の青少年は、ストリートで銃を撃ちあったりすることもなく、
大谷翔平や藤井聡太みたいに、夢に向かって一直線に突き進むでもなく、
カッコつけて、背伸びして、努力もせずに挫折して、楽しいことに逃げてばかりの連続なんじゃないでしょうか。
それでもいつかは皆、♪オトナの階段上る♪時がきますが、
映画は中盤以降、スケボー仲間の間に芽生え始めた、
このままじゃダメだ、と、このままでいいや、の葛藤を通じ、
ほろ苦い青春の移ろいを描いていきます。
そんな変化は、少年と仲間たちの関係にとどまらず、兄との関係にも及びます。
マッチョで暴力を振るうのが、実は兄の弱さの裏返しだったことを知った少年と、
知られてしまった兄と間の壁は、良い意味で綻びを見せ始めます。
少年が、これからどこへ向かうのかはわかりませんが、
仲間との関係、母や兄との関係の微妙な変化は、前向きな暗示を与えています。
映画全体に輝きを与えているラストシーンが印象的な、青春映画の佳作です。