バックコーラスの歌姫たち

画像引用:Amazon

「20 Feet from Stardom」という原題の方が、本作のテーマを的確に捉えています。
近くて遠い、スターとコーラスとを隔てる20フィート(約10m)の間には、
一体何が横たわっているのか、が本作のテーマです。

あるシンガーは、理解者(スター)にも恵まれ、業界で確固たる地位を築きますが、
あるシンガーは、虚構のスターの影武者として日陰を歩くことを強いられます。
フィル・スペクターは天才ですが、人間としてはクズだったことが、
それを象徴するエピソードとして明らかにされています。

周囲からもてはやされようが、縁の下に徹しようが、
皆、歌うことが好きで好きでたまらないんです。
何故か、ほとんどが黒人女性であり、牧師の父親のもと、
ゴスペルを通じて音楽が心と体に沁み込んだ人達ばかりです。

あるシンガーとレイ・チャールズのステージ上でのエピソードなんかを見ていると、
黒人ミュージシャンが如何に天才的な才能に恵まれていたかがわかります。

また、彼女たちの多くがローリング・ストーンズと絡んでいるのも不思議な因縁です。
黒人女性コーラスが、ロック史のサイドストーリーだったことがわかります。

ストーンズのファンなら、
「ギミー・シェルター」で圧倒的存在感を見せつけた黒人女性コーラスのことを記憶していると思いますが、
彼女(メリー・クレイトン)も本作の出演者の一人です。

スターの側は、ミック・ジャガー、スティング、スプリングスティーン、スティービー・ワンダー
といった大物が証言しています。

スティングが語った20フィートの差が印象的です。
“どんなに優れた才能を持っていても、
最終的には運を掴めるか如何かが重要で、運を掴んだ者が一流なんだ”
って言ってますが、私たちのような普通の社会人にも当てはまりそうです。

しかし、20代の頃のスティングは、頂点を極めてやる!っていうオーラに溢れていて、
半端なくトンガっていましたので、
運だけじゃなかったでしょ?って突っ込みたくもなります。

印象的なのは、コーラス界の実力者たちの顔ぶれがあまり変化していないことです。
録音技術が進歩し、歌声という最強の楽器に頼らなくても、
安価に効率よく楽曲が作れるようになってきたため、
バックコーラスは、謂わば斜陽産業になっていることがわかります。

それでも、(どの出演者が言ったか忘れましたが)歌という才能に恵まれた自分たちには、
それを人々に聞かせる使命がある、みたいなことを言っていました。

どちらかと言うと、裏方で恵まれない彼女たちですが、
一様に明るいことが、余計、切なさやほろ苦さを誘います。

tomatometer99%の傑作ドキュメンタリーです。

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