
「しろがねの葉」で直木賞を受賞した千早茜さんのデビュー作、すばる新人賞受賞作です。
明治大正時代を彷彿とさせるが、いつ、どこでの話かも定かではない、遊郭により住民の生活が保たれている架空の島が舞台です。
島に生きる人々は、日本人としての戸籍(作中では”身分証”と呼ばれています)を持たず、貧しく生き、惨めに死んでいく定めです。
幼い頃から一切の希望を捨て、抜け殻のように生きる姉の”白亜”と、姉以外には愛情を感じないサイコパスな弟”スケキヨ”の姉弟の絆を軸に物語は展開します。
長じた姉弟は、島の定めに従い引き裂かれ、姉は娼婦に、弟は男娼に身をやつしながらも、再開を期し過酷な境遇を生き抜いていきます。
悲惨な境遇により人間らしさを失った人々ばかりが登場しますが、姉弟との関わりの中で、ほんの少しだけ人の心を取り戻していく様が、哀れでもあり、救いでもあります。
淫靡で、血生臭く、それでいて美しく優しい世界観は、その後の千早さんの作風の原点のようです。
姉弟以外の登場人物たちも、その後の作品で描かれるキャラクターの原型のような、魅力的な個性を放っています。
近親相姦のエピソードが散見されるため、嫌悪感を催す読者も多いかもしれませんが、堕ちていく人々がたどり着く安らぎの境地には心を打たれます。
