熱源 / 川越宗一

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歴史小説ですが、本流ではなく、サイドストーリーで活躍した人々の物語です。
民族としてのアイデンティティが、歴史の荒波に飲み込まれて消えそうになる中、彼らが必死で抗う姿が描かれています。

中心になる人物は、白瀬中尉の南極探検に同行した、樺太出身のアイヌ人ヤヨマネクフと、帝政ロシアへの抵抗運動により樺太に流刑され、民俗学者に転じたポーランド人プロニスワフ・ビウスツキの二人ですが、他にも、史実に名を残した、シシラトカ、千徳太郎治といったヤヨマネクフの友人のアイヌたちや、アイヌ語の研究者であり、ヤヨマネクフの半生を著した金田一京助、ロシアの反政府勢力とも交流のあった二葉亭四迷などが、歴史の往来で交錯します。

また、樺太で生きるアイヌ以外の少数民族にもスポットライトが当てられており、多様な民族による重層的な展開が、物語に普遍性と深みを与えています。

日本にいる限り、民族的には圧倒的多数派に属しているため、あまり意識したことのない民族としてのアイデンティティですが、それを失うまいと、狂気のような熱を発しながら戦う人々を描くことで、その大切さを再認識させてくれる佳作です。

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