涅槃 / 垣根涼介

画像引用:Amazon

「戦国の三大梟雄(=残忍で強い英雄の意)」の一人、宇喜多直家を主人公にした上下二巻の大作です。
信長秀吉や信玄謙信などの英傑とは一線を画す中堅の戦国武将なので、小説の題材になることはそれほど多くありません。
また、ドラマで登場する際も、油断のならない怪しげなキャラクターで描かれることが多い武将です。
本作は、そんな直家を主人公にした小説としては、現時点で決定版とも言えそうです。

梟雄の名の所以は、直家が華々しい合戦よりも、毒殺や銃による暗殺、主家への裏切り等、およそ武士的倫理感から逸脱した行いを好んだことによります。
一方、本作での直家は、武士など所詮人殺しに過ぎないと割り切り、できるだけ仲間を死なせず、合理的に敵を倒す術を選択した、仲間思いのリーダーとして描かれている点が異色です。

確かに史実を積み上げていくと、信長のような大量虐殺に手を染めることもなく、降伏した敵は手厚く保護し、譜代の仲間は決して裏切らず、妻一筋で側室も置かなかったような誠実な人物像が浮かび上がってきます。
また、城下に商人を集め手厚く保護し、後の岡山市の繁栄の礎を築くなど、人柄だけでなく先進的な視点も兼ね備えた武将だったようです。

まっとうな人格を備えながらも、戦国の英傑たちの狭間で、自家の存続や領民のため、あえて悪役に甘んじた直家のリーダー像が胸を打ちます。

唯一、本作の描写で”引いてしまう”のが、垣根氏の他の作品でも見られる、入念過ぎる男女の交わりの描写です。
正直読み飛ばしてもさほど本作の本質には影響を与えないようにも思われますので、各自の好みで判断してください。

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