歌われなかった海賊へ / 逢坂冬馬

画像引用:Amazon

「同志少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬氏による長編第二作です。
ベストセラーとなった前作よりこじんまりした印象を受けますが、あまり知られていない史実を扱ったという点では、本作も意欲的な作品です。
前作同様、ラノベっぽい表紙では判断しないで下さい。

以前紹介した佐藤亜紀氏の「スウィングしなけりゃ意味がない」に呼応したような、第二次世界大戦時のナチス支配下で展開された抵抗運動をモチーフにした作品です。

「スウィング−」が、”スウィング・ボーイ”に焦点を当てていたのに対し、本作は”エーデルヴァイス海賊団”を取り上げています。
前者は、富裕層の不良少年たちによる全体主義への不服従という意味での反ナチス活動でしたが、後者は、労働者階級を中心とした破壊活動を伴う、積極的な反ナチス活動だったようです。
但し、組織化されていなかった点では、両者とも少年少女による清々しい志を感じさせます。

物語は、二人の少年と一人の少女を主人公に、ユダヤ人に対する強制収容への妨害活動を軸としながら、3人の友情や愛情を、今日的な課題であるクウィアも織り交ぜて展開します。
また、「スウィング−」へのオマージュなのか、”スウィング・ボーイ”に関する記述も見られます。

文章の上手さでは、佐藤亜紀氏に分があるようですが、物語の展開の妙は、「同志少女−」同様、著者の優れた点かと思います。
主人公以外のキャラクターも魅力的で、初めて知った史実への興味とも相まって、テンポよく読み進んで行ける佳作でした。

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