血の匂い漂うハードボイルドとファンタジーを掛け合わせた不思議な作品です。
主人公の女性は、様々な事情でこの世界に居場所を失くした人々を、別の世界に逃がす門番のような役目を担っています。
別の世界に逃れようとする人々は皆、不幸な生い立ちとそれ故に犯した罪を背負い、現世で生きる意味を見失っています。
主人公も彼女を取り巻く人々も、「人は誰かの犠牲になり、誰かのために生きられるのか。
それとも、所詮、自分のためにしか生きられないのか」という命題と葛藤しています。
誰かのために犠牲になっていると思い込むことで、罪の意識を軽くしようとしているだけなのか、自分で自分を欺いているだけの偽善者に過ぎないのか、その問いは読者自身にも向けられているようで、読み進むのがつらくなります。
それでもページをめくる指と止められないのは、自分自身の心の醜さと向き合った先に、贖罪が予感されるからでしょうか。
苦しいだけの現世を全て捨てて生きられるのなら、人はそれを選択するのか、それとも生き地獄と向き合うことでしか生きる実感は得られないのか、究極の問を突きつけるために、ファンタジーの装いは必然だったんだなと、読み終えてみて納得させられます。
つらい旅路ですが、それでも生きる強さと、自己肯定感を与えてくれる物語です。