映画オタク向けの本なので、自信をもってお勧めできる代物ではありませんが、
普通は意識されることのない名作の背景が詳細に語られているので、
本書を読んだ後で各作品を鑑賞すると、これまで以上に作品に奥行を感じることができそうです。
説明文には「映画の見方を変えた」と称賛されていますが、
そこまで大袈裟に構えなくても、トリビアとして十分楽しめます。
「ビデオドローム」「グレムリン」「ターミネーター」「ブルーベルベット」「プラトーン」
「ロボコップ」「未来世紀ブラジル」「ブレードランナー」
といったカルトの名作が多く取り上げられいますが、
私が本書を手にしたきっかけは、「ブレードランナー」です。
イダログにとっては、オールタイムベストな作品なので、
自分の解釈を補足する意味で読んでみましたが、あらたな発見もありました。
とりわけ、主人公のデッカード(ハリソン・フォード)が、レプリカントなのか否かは、
続編の「ブレードランナー2049」に至っても未だ明確な答えが示されていないのですが、
実際には作品に関わったスタッフの間でさえも、
明確な結論が共有されていなかった点が、本書では明かにされています。
リドリー・スコットだけが、デッカードはレプリカントだったと信じていたようですが、
スコット自身、自分が監督したにも関わらず、撮り終えた後でその点に気づいた節があります。
そこが本作の難解さであり、作品自身が生命を宿し、
名作として長く生き続けてきた理由のようにも思えます。
それ以外のエピソードも、基本的に監督を軸に書かれているんですが、
どの監督も、いかれっぷりが尋常ではありません。
「ロボコップ」なんかは娯楽映画の範疇に入るのかもしれませんが、
監督のヴァーフォーヴェンが本来志向していた世界観は、
暴力とセックスと糞尿に満ち溢れていたものだったことが明らかにされています。
ヴァーフォーヴェンの狂気は、読んでいてめまいがしそうな異常さですが、
どの監督も、作品作への拘りには同様な狂気が感じられます。
そんな狂人のような芸術家たちが、異常な執念で作品に拘りだしたら、
いくら金があっても足りないことは容易に想像がつきますし、
そこが、欧米の映画産業を巨大ビジネスに成長させた原動力だったのかもしれません。