
逢坂氏にとって長編三作目、直木賞の候補にもなった作品です。
一作目と同じ香りのする二作目に続く本作は、逢坂氏がまたあらたな高みに向いそうな予感を感じさせます。
架空のSUV車「ブレイクショット」によって登場人物たちを線で繋ぐ一方、ビリヤードの”ブレイクショット”によって、現代社会の在り様を暗示しています。
最初の一突きによって、散らばるボール全体をコントロールできるのか?自らの行動によって、世界を思い通りに操ることができるのか?
マネーゲーム、特殊詐欺、マイノリティーへの差別、SNSの闇など現代の病巣を背景に、ブレイクショットを放つように人を支配する者たちと、夢や職業倫理や仲間を大切にし、本当の幸福を掴み取ろうとする者たちとのせめぎ合いを描くことで、我々が目指すべき世界の在り様を見せてくれます。
そんな作者の思いは、時折引用される聖書の解釈からも窺えます。
バタフライエフェクトのような伏線が見事に回収されることで、読者はカタルシスを覚えますが、同時に、自分が知らない世界でも人々が生きていることを思い起こさせ、小さな善い行いが連鎖反応を起こし、少しづつでも世界を変えていけるんじゃないか、っていう仄かな希望を抱かせてくれる傑作です。