第165回直木賞受賞作です。
メキシコでの麻薬戦争に敗れ、再起を図るため日本で臓器売買ビジネスに乗り出すカルテルの元ボス、バルミロと、彼にスカウトされた天涯孤独なメキシコと日本のハーフの少年、コシモを軸に物語は展開します。
本作が単なる裏社会を舞台にした犯罪小説と一線を画しているのは、アステカの生贄神話とオーバーラップしている点です。
抗争に敗れ、家族の惨殺を目のあたりにしても感情の揺らぎを見せないバルミロにとって、アステカの残酷な神話は、行動原理であり、殺人をも正当化するためのモチベーションになっています。
バルミロの部下や彼のビジネスに関わる人々もまた、良心や倫理観が欠如した怪物たちばかりですが、そんな怪物たちの心にアステカの神話が吹き込まれ、おぞましくも歪な”家族”が作り上げられていきます。
最後まで地獄絵図が展開しますがが、コシモをはじめ、良心に目覚めた一握りの人々に微かな光が差すことが救いです。
560ページの大作は、終始血生臭く、吐き気がするような描写の連続なので、私の読書嗜好からは外れた作品なのですが、それでもページをめくる手を止められないのは、著者の並外れた筆力と、物語の土台をなすアステカ神話に関する圧倒的なリサーチ力の賜物だと思います。
アステカの神話と現代の裏社会が絡み合った、単なる犯罪小説とは一線を画す、重層的で格調高い力作です。