最近、西加奈子氏の短編「サムのこと」を書店でよく見かける思っていたら、
乃木坂46でドラマ化されていたんですね。
ドラマの出来は、見ていないのでわかりませんが、
原作の話です。
西加奈子氏は、デビュー当時から追い続けている唯一の作家です。
同作は、デビュー作「あおい」に収められている短編で、
最も好きな作品でもあります。
最初に読んだ時、すでに私は40代でしたので、
登場人物たちの抱く感覚を、
同世代として共有することはできませんでしたが、
同じ感覚は、まだ心が憶えていました。
ところで、リクルートの学生さんや最近の若い人を見ていると、
彼ら彼女らの意識の高さに驚かされます。
・・・うそです。つい、本気なの?と思ってしまいます。
私は特段の目的意識もなく会社に入り、
何かを成し遂げたいという強い意思もないまま、深夜に至る残業の日々の中、
無為に20代を過ごしてきました。
仕事より遊びが優先でしたが、本気で遊んでいたかどうかも怪しいものです。
やがて20代後半から30代へと年を重ねるにつれ、
目を逸らしていた漠然とした不安が、ぼんやりとした輪郭となって現れてきました。
たまに、「年をとって益々楽しくなってきたぜい!」
などと顔をテカらせて自慢しているジイサンやバアサンがいますが、
ほとんどウソです。
大半の一般人は、享楽とパッションの時を終えると、
漠然とした不安と倦怠を抱えたまま、老いに向かっていきます。
この作品は、そんな、若さの潮目が変わる瞬間を、
劇的ではありませんが、非日常的な出来事をきっかけに気づかされる瞬間、
誰もが味わうほろ苦い感覚、を見事に表現しています。
しかし、それは決して救いようがない感覚ではなく、
それでも人は不安を抱え、
弱く、みっともなく生き続けなければならないことへの共感を、
読むものに感じさせてくれます。
不安の先に見え隠れする、見ない希望を見せてくれるような秀作です。