劇団の代表でもある、上西雄大氏の監督兼主演作です。
私は、本作で初めて氏の存在を知りました。
圧倒的な好レビューを得ている本作ですが、昭和の空気感が漂っているため、視聴年齢を選ぶ作品かもしれません。
レビューに”ベタな”というキーワードが多く見られるとおり、情緒的な演出やBGMの多用により、泣かせることを意識した作品とも言えます。
旅芝居が高齢者を泣かせる感覚とちょっと似通っているのかもしれません。
幼い頃虐待を受けて育った上西氏演じる空き巣の常習犯が、盗みに入った先で、虐待を受けている少女と出会い、少女を救うため、少女と母親の人生に関わりを持って行く話です。
そう聞くと、ヒロイックな主人公を想像しますが、最初、主人公が優しさを注ぐのは少女に対してだけで、少女の母親や周囲の人間には、無知で暴力的な接し方しかできません。
タイトルにあるとおり、人間のクズ(ひとくず)のような人物ですが、上西氏は主人公のキャラクターを見事に演じきっています。
少女に対する優しさも、ある意味、獣のように育てられた幼い自分に対する、人間のクズに落ちた自分による贖いのようでもあります。
少女のためには狂気のような行いも辞さず、主人公の優しさはやや独りよがりにも見えます。
そんな、血と暴力に彩られた主人公の心が、徐々に自分への憐れみから、他者への本当の優しさに変化していく様が、本作の見どころであり、泣かせどころでもあります。
血と暴力の世界を抜けたラストシーン(エンドロールの合間に挿入されています)では、闇が晴れるような、優しい空気に包まれます。