きずもの / 西加奈子

画像引用:Amazon

西加奈子さん5年ぶりの長編は、ストーリー性に重きをおいた作品と言うよりは、登場人物それぞれの心理を深く掘り下げ、さらけだしていくような作品です。

ストーリーとしては、一組の男同士、二組の女同士、それぞれの青少年期から中年期に至る、長いつきあいが描かれていきます。
必ずしも全員が絡み合うわけではないのですが、一つの事件が、皆に共通の体験を与え、それぞれの関係性を微妙に変化させて様が描かれていきます。

時に濃密な時間を共有し、時に音信が途絶えながらも、ここぞという時に大事な時間を共有し合える間柄が、本作では”マブズレ”という言葉で表現されています。
どんなに長い時間を共有し合った友であっても、100%理解し合えるわけではありません。
相手の中に潜む悪意や欺瞞の匂いを嗅ぎ取りながらも、それでも長い道程を共に歩いていく”マブヅレ”たちに対する視線には、作者の優しさが感じられます。

人間の深層心理を抉っていくと、時として醜い一面があらわになってしまうこともありますが、それを憎むのではなく、静かに受け入れようとする姿勢が、西加奈子文学の素晴らしさです。
深刻になりそうな場面で、関西人らしいボケとツッコミを発動し、スコーンと空気を入れ換えてくれる文体も魅力的です。

ガリ勉、オタク、筋肉バカ、不思議ちゃん、ビッチなどなど、表層的なイメージだけでネガティブなレッテルを貼られた人々の考えや思いを深く掘り下げていくことで、考えや立場の異なる者同士が認め合える世界を描こうとしているように思われます。

482頁の長編は、場面も目まぐるしく入れ替わり、多彩な登場人物への洞察にも多くの言葉を費やしているため、読み進めるのに時間を要するかもしれませんが、作者お得意の浪花のユーモアが潤滑油のように機能していますので、肩の力を抜いて読書の楽しさを味わえる良書です。

タイトルとURLをコピーしました