俳優としても活躍しているケネス・ブラナー監督による、ブラナー自身が少年時代を過ごした北アイルランドのベルファストを舞台にした作品です。
時代は、アイルランド紛争が激化し始めた60年代後半です。
通常、この時代を背景にした作品は、悲観的になりがちですが、本作は、不穏な空気を漂わせながらも、ユーモアの力により、悲劇の一歩手前で踏みとどまっています。
アイルランド紛争を軸にしながらも、ブラナーを投影した少年の視線は、あくまでも家族や友人と育んだ絆に注がれています。
１時間３８分の短めの尺ながら、少年が経験する、淡い恋、家族との別れ、映画や音楽への愛、ちょっとした非行への憧れ、などが、混乱を来すことなく、効果的に散りばめられており、成長物語として芳醇な味わいを醸し出しています。
ジュディ・デンチ演じる少年の祖母役を始めとして、登場人物は魅力的なキャラクターばかりです。
もちろん、少年とその家族には、紛争を解決する力などありません。
物語が終わった後も市民同士の対立は長く続き、イギリスの歴史に暗い影を落とすことになりますが、歴史のうねりに翻弄されながらも、日々の暮らしにささやかな幸せを見出し、周囲への誠実さを失わず、前を向いて進んで行こうとする少年とその家族の姿には心を揺さぶられます。