ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ

画像引用:Amazon

本屋大賞受賞、かつ2019年に米国で最も売れた本だそうですが、
読み手に判断が委ねられる、なかなか厄介な作品だと思います。

ノース・カロライナの湿地が舞台で、
貧しさから家族が一人ずつ消えていった小屋に一人残された少女が、
一部の人の善意にも助けられながら、湿地の専門家に成長していく物語です。
その過程で、殺人事件や法廷劇、孤独と恋愛、差別などが絡んできます。

家族から置き去りにされ、愛する者から裏切られる苦しみが、
湿地の自然や生き物たちの美しさとの対比で描かれていきます。

ページ数は多いですが、読みやすい翻訳も相まって、
湿地の美しさが伝わってくる点が、本書の読みどころの一つです。

一方、一筋縄ではいかないのが、少女から女へと成長していく主人公の内面の葛藤です。

湿地の美しさと人間の醜さが対比されながら物語が進行していくんですが、
家族や恋人との絆に憧れながらも、人との接触を頑なに拒む少女の生き様は、
さながら湿地の一部のようでもあります。

殺人事件に巻き込まれながらも、自分の居場所を見出す終盤は、
幸福な人生のようにも読めるんですが、
結局は、湿地でしか自分の生存領域を見出せない哀しさが残ります。

主人公も湿地の自然や生き物と同じように、
心に野生を宿して生き、死んでいくんですが、
この内面の野生が、本作を読み解く上で、重要なカギになっているように思えます。

ネタバレになるので詳しくは言えませんが、
不幸な生い立ちの少女が、周囲の助けで最後は幸せを掴むという、
ありきたりな物語で終わらせないところが本作の凄みです。

主人公が突きつけてくる荒ぶる魂からは、
偽善を排した、野生を生き抜く力強さのようなものが感じられます。

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